『◯◯のスマホ』シリーズは大河と並ぶ時代劇に? 視聴者を熱狂させた工夫の裏側を聞く
「もしも歴史上の偉人がスマホを持っていたら?」という設定と、全編スマホ画面のみという大胆な演出のSF時代劇『◯◯のスマホ』シリーズ。5分×8回(40分)ながら偉人の濃密な人生を描ききり、スマホによって現代人にも共感度の高いものになっている。
『光秀のスマホ』(2020年)にはじまり、『土方のスマホ』(2021年)、『義経のスマホ』(2022年)と来て、『天下人のスマホ』(『信長のスマホ』『秀吉のスマホ』『家康と三成のスマホ』(2023年))とついに三英傑がそろったうえ、『家康と三成のスマホ』では関ケ原の戦いの勝敗を視聴者投票で決めるという企画を行い大いに盛り上がった。
企画を立ち上げ演出も手掛ける田中涼太PD(プログラムディレクター)と『光秀のスマホ』からスマホ画面作成やSNS展開で参加している本庄優一PD、『信長のスマホ』から演出補として参加している永山祐太郎PDに、このユニークな取り組みについて聞いた。(木俣冬)
わかる人にはわかる歴史ネタやネットミーム
――『◯◯のスマホ』シリーズをはじめたきっかけを教えてください。
田中涼太(以下、田中):INPUT(世界公共放送番組会議)という世界の公共放送が情報共有する場に研修に行ったとき、各国の作品を観て、マルティン・ウィンクラー監督の『#タグづけされた世界 #TAGGED』というドラマに目が止まりました。12分くらいの短編で、女子学生がクラブにスマホを持っていったらーーという内容で世界的な賞を取っている画期的なもので、スマホを画面のど真ん中に据えていて、この演出を活かしたドラマを日本でも作れたらと思ったことがそもそものきっかけです。
――なぜ歴史ものにしたのでしょうか?
田中:もともと『ネーミングバラエティー 日本人のおなまえっ!』(NHK総合)を企画、総合演出していたこともあり、歴史ものには興味がありましたので、題材は歴史もので「もしも歴史上の偉人がスマホを持っていたら」という設定を思いつきました。また他局ですが『日本人のおなまえっ!』(NHK総合)の司会者・古舘伊知郎さんがなぜか本能寺の変の現場にいて、一部始終を実況する番組をやっていたのを見て、歴史に現代の異物が紛れ込む演出がおもしろかった。そこで、本能寺の変が実際にあった6月1日の夜中から2日にかけて放送する企画『信長のスマホ』を提出したんです。でも、上司からは渋い反応でした。あきらめきれず、サラリーマンの悲哀をスマホを通じて描く現代ものの企画書も書きましたが、それも通らなかった。そんなときNHK大河ドラマ『麒麟がくる』がクランクインしたと聞き、大河ドラマと連動する企画書『光秀のスマホ』を再度提出したところ、ちょうど編成的にも、大河をもうすこし若い世代やデジタル世代の方々につなぐことを望んでいたタイミングでもあったので、5分×6話の短い尺でやることでOKが出ました。
――5分×6話のスタイルにした理由は?(現在は8話)
田中:5分の枠は融通がききやすいんです。『#TAGGED』も12分くらいの番組でしたし、あまり長いとスマホ画面をずっと凝視するのも大変であろうということがあったので、編成と相談の上で5分を選択しました。回数は、短い期間で、登場人物の物語がきゅっとコンパクトにまとまる本数として6本に決めました。プロットで、光秀の人生を考えたとき、6回だとうまくまとまりそうだなと思って。ただ、『土方のスマホ』を作ってみて、もう少し長い物語にしても視聴者の皆さんも付いてきてくださるのではと考え、その後、8本に増やしました。その結果、ストーリーのなかで感情の起伏や人生の浮き沈みをより描けるようになりました。
――短い時間で、スマホを交えながら登場人物の歴史を描く脚本づくりはどのような工夫がありましたか?
田中:企画の立ち上げでは、「【至急】塩を止められて困っています【信玄】 日本史パロディ 戦国~江戸時代篇 」や「インスタ映えする戦国時代」などの著者スエヒロさんや、SNSで活躍する歴史系インフルエンサーの石田三成@ZIBUさんなどに参加していただきました。メインライターは竹村武司さんにお願いしました。主人公や物語の大枠のストーリーラインはこちらで決めたのち、竹村さんと相談して書き進めました。まず、年表を作り、キーになる出来事をピックアップして、1話のなかに有名なエピソードを入れていく。それから、『タイムスクープハンター』(NHK総合)などで時代考証に携わってきた清水克行先生に時代考証をお願いし、史実と照らし合わせながら、現代に仮託するとどんな主人公でどんなエピソードがあるか考えます。たとえば、光秀(山田孝之)だったら、承認欲求が強い人で、フォロワーを増やして世間に認められたいがために本能寺の変に至ることにしようとか、土方(窪田正孝)は、近藤勇と地元のやんちゃ仲間で、近ちゃんに認められたくて、彼への愛ゆえに暴行してしまうことに。家族と離れて育った義経(川栄李奈)は『鎌倉殿の13人』とは違う陰キャにしようとかですね。
――スマホの画面ーーアプリやLINE(FUMI)の会話が凝っています。これはどなたが考えているのでしょうか?
田中:スエヒロさんや石田三成@ZIBUさんは劇中、メインストーリーとは関係ないところのSNSでトークする人物の選定や、SNSの数字――年号、フォロワー数、いいねの数、ネットニュースの本文などを相談しています。先日行われた「9.16 リアルイベント『天下人のスマホ in 関ケ原』」で竹村さんが、完成作を観てて、自分が書いた覚えのないネタがたくさんあると言っていたのはそういうことです。
本庄優一(以下、本庄):脚本で、大まかにSNSを見ているところに、ニュース通知が来て、そこから別のSNSに行って……というような流れは指定されていることもありますが、誰が何をつぶやいているかはまでは書かれていないので、それをスエヒロさんや石田三成@ZIBUさんなどの作家さんの力を借りながら作っています。わかる人にはわかる歴史ネタやネットミームを入れるようにしています。
永山祐太郎(以下、永山):『天下人のスマホ』から参加している僕は、キャラごとにアプリを考えたりしています。例えば三成だったら経済系のアプリが多そうだな、家康だったら健康系、薬局のアプリを入れていそうだなと。アイデアとデザインを考えることは楽しいですし、それがネットで話題になると嬉しい。『信長のスマホ』からは劇中、ウェブ会議をやるようになり、『秀吉のスマホ』ではテレビ電話のときにインカメラを用いるなど、毎回新しい演出を、チームで相談しながら加えることで飽きられないための工夫をしています。
――スマホの画面はCGをはめ込んでいるんですか?
本庄:ロケのときーー主演俳優のかたがスマホを操作するとき(カメラにスマホをとりつけ、それを俳優が背負って操作しながら撮影している)、例えばSNSで、文字入力するところは実際にスマホを俳優さんが操作しますが、相手からメッセージが届いたり電話がかかってきたりするときは、俳優さんの後ろに僕がいて、iPhoneとBluetoothのキーボードを連携させ、こちらの操作でスマホに通知がくるという仕組みになっています。なので、僕がタイミングを誤るとNGが出かねないので、緊張しながらも楽しくやっています。
――横長のテレビ画面に対して縦長のスマホ画面が延々続くことはネックにならなかったですか?
田中:『#TAGGED』も画面の真ん中にスマホがあり、そこが強みと思っていました。スマホの両サイドのピンボケの背景も、背後の見えないところも勝手に視聴者が想像するもので、例えば家臣がひとりしかいなくても、あの陣幕の向こうには何千、何万人もの家臣がいるだろうと想像してくださる。逆に狭ければ狭いほど世界が広がります。予算的なこともありますが、視聴者のかたの想像力に委ねて作っています。
――アプリなどの仕掛けでお気に入りのものを教えてください。
永山:『信長のスマホ』では作った、音楽配信サービスをもじった「ランジャタイ」がお気に入りです。ただSNSで全然つぶやかれていなかったので、やっちまったと思いました(笑)。
田中:小ネタを、末広さんやジブさん、清水先生からもいただき、みんなでアイデア出しをしていますが、まったく視聴者に触れられないものもあるんです。「rikyubucks」は何度もつぶやかれるので何度も使っています(笑)。
本庄:『義経のスマホ』第5話、義経が平宗盛にクソリプを送るシーンで、宗盛のツイートについているコメント数・RT数・「いいね」数の並びが、壇ノ浦の戦いの日付になるようにしたんです。これに気づく人はいないと思っていたら「平家が滅ぶ日づけにしてるってこと?」とツイートしている人がいて。細かい所に気づいてくれると嬉しいし、逆に隅々まで手が抜けないと身が引き締まります。届かなかったアイデアだと、『義経のスマホ』でVTuber・ゲタ子がでてきたので、色々調べてVTuberネタを入れたつもりだったんですが、シリーズファンとVTuberファンがあまりかぶってなかったか反応が薄くて「あれ?」ということがありました。当時、壱百満天原サロメさんがデビュー間もないタイミングだったので、それっぽいコメントを入れたりしたのですが、ひとりふたりしか反応がなかった。ただ、元ネタがわかっていなくてもイメージで楽しんでくれていたようです。
田中:わかってもらえない悔しさと喜びとが両方ある気がするんです。この細かさは気づかないだろうと思っていたにもかかわらず気づかれると悔しいこともあるんですよ、バレちゃったかみたいな(笑)。それだけぎゅうぎゅうに細かいネタを詰め込んでいます。視聴者との勝負というかコミュニケーションでもあるんです。