『◯◯のスマホ』シリーズは大河と並ぶ時代劇に? 視聴者を熱狂させた工夫の裏側を聞く
スマホを見続けたままで終わる最期
――ハッピーエンドとバッドエンドの2種は最初から決めていましたか?
田中:最初は、どちらも結末が決まってなくて、ハッピーとバッドエンドに分けようとも考えてなかったんです。竹村さんや清水先生と話をしていくなかで、三成が勝った場合の終わり方が難しくて。三成が勝って家康を討つパターンも考えました。ただ一番、誰も予想がつかない裏切る方法はないかと思い提案したのが、仲良くするということです。意外性もあるし、今後もきっとないだろうということで、一番おもしろそうなものが総意になりました。
――これまでのスマホシリーズのラストシーンも裏切りたい故だったのでしょうか?
田中:最初は、それほど深く、裏切ろうとは考えていたわけではありません。ただ、スマホを持ったまま、最後をどうやって終えるか考えたとき、おそらく僕ら現代人も最後までスマホを見続けたままになるかもしれないなと。竹村さんとしても、誰にも平等にあっけなく死は訪れることを表現することを目指していたようです。結果、ある種のシニカルな、引いた目線のラストシーンになりました。そういう突き放した終わり方で大丈夫かなという意見もありましたが、あえて振り切ったほうがそれまでの笑いの部分とギャップも大きく、メッセージ性もあると思いました。
――裏切りといえば、キャストの意外性もあります。
田中:顔が見えない分、さらに楽しんでもらえるようなキャスティングを考えています。SNSではよく“豪華キャストの無駄遣い”だとも言われますが(笑)、決して無駄遣いではないと考えています。顔が見えないけれど演技としては全力でやっていただいているからこそ、伝わるのだと思っています。顔が出ない分、余計に体の演技が問われることが大きい気がして。声と指先のほか、一部だけ映る体で心情を表現したり、5分×8回のわずか40分で人生を演じたりするという、とても特殊な演技を求められるんです。
永山:僕も少し演出をやらせてもらっていますが、皆さん、足も少し映るので、ぶらぶらさせたり、あぐらをかいたり、寝転んだり、全身を使っています。石田三成役の柄本時生さんの、イライラした手元とか、ホシガキマンを潰す動きとか、こちらでは思いつかなかったような、演技巧者の俳優さんたちだからできる動きがあって、さらにリッチなコンテンツになっています。
――安田顕さんは舞台『WARRIOR~唄い続ける侍ロマン』(2012年)でも家康を演じていましたがそこからのキャスティングですか?
田中:竹村さんが安田さん出演の『じゃじゃじゃじゃ~ン』(フジテレビ系)や『がんばれ! TEAM NACS』(WOWOW)の脚本を書いていたご縁です。家康も三成もどちらもいやなやつにも見えるようにしたいと考えて、三成は史実では長文の書状を書くのでいわゆる“メンヘラ”っぽく、家康はすこしサイコパス感があるようなキャラにしようと。そのとき、安田さんがフィットするのではなかろうかと声がけさせていただきました。その意味では竹村さんによる当て書きも入っています。
――限定で方言バージョンなども放送しています。ひとつのコンテンツでいろいろなバージョンを今後もやっていきますか?
田中:人一倍、飽きられないようにしたいという想いが強いので、同じと思われないよう、前作とは違うことをと、知恵を絞っています。今は、大河に紐づいて放送していますが、ゆくゆくは、大河関連以外でもスマホシリーズがいろいろな展開をしてもらえるといいのではないかと思っています。
――ちなみに番組の打ち合わせにはスマホを使っているのでしょうか?
田中:コロナ禍にはじまったシリーズだったこともあって、リアルに会うのではなく、まるで秀吉や信長の家臣たちがやっていたように、スマホやPC使ってウェブ会議をやっていました(笑)。
■放送情報
『家康と三成のスマホ』
11月5日(日)24:25〜25:05、NHK総合にて再放送(全8話×5分)
脚本:竹村武司
出演:安田顕、柄本時生、大谷亮介、後藤剛範、石上雅流、佐藤峻輔、松井ショウキ、永澤洋
声の出演:六角精児、落合モトキ、杉田智和、じゅんいちダビッドソン
写真提供=NHK