『ブギウギ』が教えてくれる“劇場”の重要性 蒼井優演じる大和が出した答えから考える

『ブギウギ』から考える“劇場”の重要性

 彼女は仲間たちとともに、そこを目指している途上であった。が、“世界恐慌”の影響を受け、劇場を支えてきた仲間たちを守るか、何人かの仲間との縁を切ってでも劇場の舞台に立つのかを迫られた。立場を揺るがされたわけだ。そしてスズ子らは、本来あるべき姿の劇場を取り戻すべく闘っているところである。

 かたちは違えど、これには誰もが既視感を覚えたのではないだろうか。自宅のテレビモニターを見つめながら、いつかの時代のどこかの物語を眺めながら、拳を握りしめずにはいられない。これは筆者だけじゃないだろう。

 令和を生きる私たちも、コロナ禍によって「劇場」という場を剥奪された経験がある。もちろん、『ブギウギ』が描いているものとは時代背景も社会の環境も違う。状況はすべて異なるけれど、「劇場」というものが私たちの日常から消失した事実は誰もが理解しているはずだ。現実から離れる手段を失うというのは苦しいものだった。「上演中止」や「休館」の文字を見つけるたび、多くの方がいたたまれない気持ちになったことだろう。

 劇場を運営する者やその舞台に立つ者たちは、それらと引き換えにさまざまなリスクを背負った。いまだに不安に苛まれている人々もいるに違いない。「劇場」を失ってみてはじめて、その存在が当たり前のものではなかったのだと誰もが再認識したのではないだろうか。

 改めて、なぜ私たちは劇場へと足を運ぶのだろうか。筆者は演劇や映画を観るために日常的に劇場へと通っているが、やはりひとつは大和礼子が言うように「現実から離れたくて」なのかもしれない。が、そこまで単純でもない。非現実的な世界に触れることで、自分が実際に生きる現実世界というものをかえって強く実感することができる。このためにこそ、劇場通いを続けている。似たような感覚の方は少なくないのではないか。日常の中で感じた喜びは劇場に行くことでさらに際立ち、悲しみは思っていたほどたいしたものではなかったのだと気づかされる。それがエンターテインメントやアートの力。つまり、現実をよりよく生きるためにこそ、劇場はなくてはならない存在なのだ。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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