『らんまん』映画のような月明かりの神演出 希望・苦悩・決意が伝わるそれぞれの現在地
屋台のセットの細やかさも含めて、脚本の丁寧さと品の良さはもちろん、演出の美しさを改めて痛感した『らんまん』(NHK総合)。第112話では、万太郎(神木隆之介)、寿恵子(浜辺美波)、竹雄(志尊淳)、綾(佐久間由衣)、藤丸(前原瑞樹)、波多野(前原滉)、虎鉄(濱田龍臣)の想いがそれぞれ交差していく。
竹雄と綾の始めた屋台で、故郷の味を思い出す万太郎と虎鉄。もう土佐には帰れないから、最後にみんなで食べたかったヤマモモ。竹雄と綾も、万太郎と寿恵子のように多くのものを失い、苦労してきた。だからこそ未だにあの時の火落ちのことが忘れられない。これまでは火落ちが出ても、それを“酒蔵の神様”が決めたことだと、運が悪かったと受け入れるだけだった。しかし、酒の良さを決めるのは“人の知恵”である。
「私らにできたことは、昔ながらのやり方を守る。それだけじゃった」
先人のやり方を踏襲するしかなかった若者の苦悩。竹雄と綾の告白は、酒造りとは全く違う分野にいる藤丸と波多野、そして万太郎もそれぞれの経験をもって理解するところがあるだろう。2人は東京に出てきた本当の理由……酒造りを研究する先生を探し、火落ちを出さないための原因が知りたいことを明かす。今は日本で醸造の教授がいない現状がままならないが、そこで立ち上がったのは藤丸だった。
最後に一杯飲む、と言って残った彼が注文したのは「新しい酒」。初期の彼のことを思い返すと、なんて粋なことをするようになったのだろうと思う。しかし、あの時から辛くても辞めたくても頑張ってきた藤丸が、いまは菌類の研究をする場がなくて実家の酒問屋を手伝っているのもなんだかやるせなくて、だからこそ彼が大学での時間や気持ちを無駄にしないように竹雄と綾のために立ち上がるのは理にかなっている。海外では研究されているかもしれない、そういう本を読むことは俺にだってできると話す藤丸。学生の時は外国語が苦手で田邊(要潤)にこっぴどく絞られていたのに。この一言だけでも、彼の成長を感じられるのだ。そんな藤丸に、竹雄と綾は深く頭を下げた。
屋台で食べた土佐の味にご機嫌な様子の虎鉄は、寿恵子から“3代目助手”の称号を受け継ぐ。かつて万太郎が働いていた印刷所で彼が働いていることだけでも感慨深いのだが、虎鉄のポジティヴな雰囲気は上京したての万太郎を彷彿とさせるのだ。そんな彼を見つめる寿恵子は、新しい命が宿ったお腹をさする。長女が下の子の面倒を見てくれるようになって助かる部分もあるが、もう自分は万太郎と一緒に日本中を歩くことが無理だとわかってきた。“一緒に冒険する”、結婚したときに立てたこの誓いをどのような形で叶えていくのか。そんなことを悩んでいる様子にも捉えられる。