『君たちはどう生きるか』タイトルに繋がる3つの要素 残酷な世界で生きていくということ

『君たちはどう生きるか』を紐解く3つの要素

 また、傷を負う者は眞人だけではない。眞人の父との子を妊娠した夏子もまた、吸い寄せられるように別世界へと赴き、その世界では入ることを禁忌(タブー)とされる産屋でひっそりと身を潜める。ナツコとともに元の世界へ戻るため産屋へ入った眞人は、凄まじい形相で彼女から「あなたなんて大嫌い」と拒絶される。周囲には紙垂(場が神聖であることの印であり、悪いものを寄せ付けぬよう垂らされる)のようなものも見受けられ、ここから考えられるのは、子という新たな命を世に産み落とす女性という存在への畏怖や、出産をある種の穢れと考える思想、そして何よりも女性の抱える苦しみだ。スタジオジブリにおける女性キャラクターの描き方が過去と今とで異なることにも気づけるだろうし、宮﨑駿監督自身の中の女性像の変化、母性の再解釈なのだと捉えることもできる。新たに産まれる、産むことへの痛み/生とはある意味で外部からの圧力により発生するものであり、しかしながらその渦中、後の歩みは自己決定によらなければならない、という寓話めいたメッセージを伝えているようにも見えた。

 そんな2人がラストシーンで元の世界に戻り、飛び立つ鳥の糞(鳥の糞は幸運の前触れともされる)にまみれ、心からの笑みを見せたのを見て、思ったことがある。『君たちはどう生きるか』で描いているのは、誰しも産まれることは怖いはずであるのに、誰もそれを自らの意志で選ぶことが出来ないということだ。

 身を裂くほど苦しいトラウマを背負うこともあれば、自分や親しい人が傷を負ったり、血が流れたりすることもあるような、醜く酷い世界に我々は問答無用で産み落とされる。しかしこれからを生きていくこと、自分自身で選び取って人生を歩んでいく勇気が持てた時、全く新しい世界の想像(創造)ができる。人間とは、人生とは、生きるとは、そんな希望のあるものなのである、ということを、本作は伝えたかったのだと感じる。

 巨匠・宮﨑駿の最後の作品となるかもしれない本作を、ぜひ心の目を、耳を解き放ち、全身全霊で感じてほしいと思う。もう一度、“物語”よりも“人生”で、“人生”が“語られる”この作品を前に問いかける。君たちは、どう生きるか。

■公開情報
『君たちはどう生きるか』
全国公開中
原作・脚本・監督:宮﨑駿
主題歌:米津玄師「地球儀」
製作:スタジオジブリ
配給:東宝
©2023 Studio Ghibli

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