『君たちはどう生きるか』の爆発的スタートと映画宣伝の本質

『君たちはどう生きるか』と映画宣伝の本質

 先週末の動員ランキングは、宮﨑駿監督の10年ぶりの新作『君たちはどう生きるか』が、オープニング3日間で動員100万3000人、興収16億2600万円をあげて初登場1位となった。7月17日の祝日(海の日)を含む4日間の成績では動員135万3000人、興収21億4900万円。同作を巡っては、公開前に明らかにされていたのがポスタービジュアル1点だけという極端な情報統制が敷かれてきたこともあって、その初動成績に注目が集まっていたわけだが、フタを開けてみれば2001年公開の『千と千尋の神隠し』(最終興収316.8億円)の初動4日間興収も超えて、スタジオジブリ史上最高のスタートダッシュを記録したことになる。

 さて、ここまでは既に他のメディアでも散々ニュースとして報じられていることだが、公開からちょうど7日目となる現時点(7月20日)においても、公式からの劇中の動画はもちろんのこと場面写真さえ一切リリースなし。声優陣も作品のエンドロールで確認できる役名なしのクレジットと、一部キャストが自身のホームページなどでどの役を演じたかについて明らかにしているだけで、作品公式からの詳細な発表はなし。今後、劇場パンフレットの販売(公開直前に劇場パンフレットの販売が追ってされることが発表された)、恐らくは予告編(事実上は追告)の公開(作品のエンドロールに予告編制作スタッフのクレジットがあった)などが控えているものの、公開後もここまで情報の出し渋りが続くことは予想できなかった。

 ひとまずは「大成功」と言える、『君たちはどう生きるか』の「ノー・プロモーションによるプロモーション」。それが映画業界や広告業界や放送業界に与えたインパクトと今後の影響に関する分析は他の人に任せるというか、個人的には「スタジオジブリ一社単独製作による宮崎駿の10年ぶりの新作」はあまりにも特殊なケースなので一般化しようがないと思うのだが、それが観客にもたらした影響について少し考えてみたい。

 面白いのは、『君たちはどう生きるか』への評価やリアクションが真っ二つに分かれていることだ。個人ブログなどでの批評や考察がある程度出揃った現時点は、絶賛の方がやや目立つようになってきたが、少なくとも公開された最初の週末までは絶賛と困惑が半々といった状況だった。これは一体何を意味しているのか?

 映画のプロモーションというのは、単に作品の存在を広く宣伝するだけではなく、散々ネタにされてきたような「全米が泣いた」的宣伝コピーや(最近はあまり全米は泣かないが)、映画館の場内で一般の観客が興奮気味に感想を喋る映像を編集したテレビCMなどがわかりやすいが、大なり小なり観客に「作品の見方」を誘導するものだ。その誘導がまったくないからこそ、今回の『君たちはどう生きるか』には両極端なリアクションが公開直後にたくさん見られたのではないだろうか。そう考えると、『君たちはどう生きるか』の今回の「ノー・プロモーションによるプロモーション」は、宣伝手法として一般化こそできないにせよ、社会実験としてはとても貴重なものだったことがわかる。

■公開情報
『君たちはどう生きるか』
全国公開中
原作・脚本・監督:宮﨑駿
主題歌:米津玄師「地球儀」
製作:スタジオジブリ
配給:東宝
©2023 Studio Ghibli

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