『らんまん』藤丸の存在が物語に広がりを生む 『舞いあがれ!』に続く前原瑞樹の功績

『らんまん』藤丸の存在が広がりを生む

「そこまでして新種発表とか、名付けとか競わなきゃいけないんですか」
「誰が発表してたって、花は花じゃないですか!」

 『らんまん』(NHK総合)第76話にて、藤丸(前原瑞樹)は今にも泣きそうな顔でそう叫んだ。この言葉は、その場にいた植物学教室の面々へというよりは、学者を取り巻く厳しい現実への嘆きのように聞こえた。普段は藤丸と仲の良い波多野(前原滉)は、この時、藤丸には同調しなかったものの、その後「こんなのは、研究してたらあることなんです。慣れないと……」と長年、研究してきたトガクシソウが、別の名前で先に世界へ新種として発表されたことへの悔しさを滲ませた。藤丸と波多野、いや植物学教室の全員が、それを表す言葉こそ違えど同じ気持ちを抱いていたことだろう。

前原瑞樹

 徳永(田中哲司)は「ここはそういう場だ。一人ひとりが自分と戦う戦場なんだ」と言ったが、藤丸はトガクシソウを遠い津軽の地まで採集に行き、花が咲くのも十分に待った。その間に何度も何度も「東京へ帰りたい」とか「もういいんじゃないか」と思ったはずだ。それでも研究を続けてきたことは、「自分に勝った」と言えるのに、その成果は別のところで同じく自分と戦っていた他の人に取られていった。波多野の言うとおり、競っていたのは田邊(要潤)と伊藤孝光(落合モトキ)で、藤丸は手伝っていただけで深い関係はない(それも辛い話だ)。藤丸自身が学者として名をあげるには、今回のことは割り切って自分の研究を続けることが最善の道なのだ。だがこの件を通して、藤丸は花や植物が好きで、追求したいだけだったのに、いつの間にか戦場でボロボロになっている自分に気づいてしまったのだろう。

『らんまん』“優しい”藤丸だからこそ感じる辛さに共感 寿恵子を支える頼もしい一面も

優しい人が、競争社会の中で辛い気持ちになって心を病む姿を見るのは辛い。『らんまん』(NHK総合)第77話では、万太郎(神木隆之介…

 そんな、行動や言葉から心が潰れかかっているのがひしひしと伝わってくる藤丸を演じているのは、前原瑞樹だ。前原が朝ドラに出演するのは3度目。前回は、2022年後期に放送された『舞いあがれ!』(NHK総合)で椿山修役を演じていた。椿山は「むっちゃん」と呼ばれており、さくら(長濱ねる)の遠距離の恋人として舞(福原遥)の子供時代から名前だけがよく登場していた。さくらと結婚した後も「みじょカフェ」にある似顔絵での登場が多かったが、実際のむっちゃんは、よく日焼けをしていて、からからと笑うがちょっとロマンチストなところもあるはつらつとした男だった。

 飼っているウサギに「雪玉」「おもち」「とうふ」と白にちなんだ名前をつけ、葉を与えては「おいしい?」と聞いたり、つわりに苦しむ義姉のために揚げ芋をこしらえたり、今度はそれを万太郎(神木隆之介)に教え、彼の妻・寿恵子(浜辺美波)に食べさせようとしたりする藤丸とは全く雰囲気が異なる。

 このふたりを同じ俳優が演じているのだから驚きだ。前原のこの“バイプレイヤー”としての演技が物語に広がりを生み出している。ゲスト出演や数シーンの出演が多いが、いずれも印象深い役や重要な役どころを演じている。また前原は、劇作家で演出家の平田オリザを中心に旗揚げされた劇団・青年団にも所属して舞台でも活躍しており、役者としての幅広さを持っている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる