『大脱走』『ブルーベルベット』映画史に残る傑作を吹替で 池田秀一、山寺宏一らも参加

『大脱走』ほか、映画史に残る傑作を吹替で

 洋画ファン垂涎の貴重な吹替音源を発掘し、Blu-rayソフトに初収録するという快挙を続けている「吹替シネマ」シリーズ。前回記事に続き、2023年リリースの錚々たるラインナップのなかから、特に見逃せない3作品を紹介しよう。いずれも映画史に残る重要作であるだけでなく、吹替版の復刻を望む声が大きかった作品ばかりである。

『大脱走』

『大脱走』©1963 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. and John Sturges. All Rights Reserved.

 1本目は、言わずと知れたジョン・スタージェス監督渾身の傑作『大脱走』(1963年)。第二次世界大戦中のドイツ捕虜収容所を舞台にした抵抗と闘争の群像劇であり、その後のあらゆる娯楽映画のお手本になった脱出スペクタクルの金字塔だ。連合軍兵士250名の脱走計画という無謀なミッションを、魅力的なキャラクター描写とダイナミックなアクションを交えて描き、約3時間の上映時間をまったく飽きさせない。スティーヴ・マックイーンを筆頭とするキャスト陣のアンサンブル、誰もがテーマ曲を口ずさんだことのあるエルマー・バーンスタインの音楽もいまだ色褪せない、永遠不滅の名作だ。

 今回は公開60周年を記念した「60th ANNIVERSARY 日本語吹替音声完全収録 4K レストア版」と題し、通常版と特典ディスクつきの「SPECIAL」の2バージョンがリリース。両バージョンとも本編は4Kリマスター素材を使用、さらに1971年放送のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』版、2000年放送のテレビ東京『木曜洋画劇場』版の吹替音源を収録。前者は待望のノーカット完全版、後者はソフト初収録という、いずれもファンには嬉しい仕様だ。

 1971年『ゴールデン洋画劇場』版では、昭和のレジェンド級声優が一堂に会し、その名演をたっぷり楽しむことができる。スティーヴ・マックイーン=宮部昭夫、チャールズ・ブロンソン=大塚周夫、ジェームズ・コバーン=小林清志といった「この役者にはこの声優」というレギュラー声優陣の顔ぶれはもちろん、アイヴス(アンガス・レニー)役の富田耕生、ラムゼイ(ジェームズ・ドナルド)役の大木民夫、マクドナルド(ゴードン・ジャクソン)役の上田敏也といった実力派バイプレイヤーのアンサンブルも味わい深い。なかでも素晴らしいのが、ジェームズ・ガーナー演じる調達屋ヘンドリーの吹き替えを担当した家弓家正の軽妙な演技。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのサルマン(クリストファー・プラマー)、あるいは『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)の人形使い役など、知的で威厳のある役柄のイメージも強いが、実は本作のように不良っぽくて色気のあるキャラクターもぴったり(『風の谷のナウシカ』のクロトワ役を思い浮かべるべし)。オールドファンはもちろん、若い洋画ファンにも一度は聞いていただきたい、吹替史上でも指折りの名編である。

『大脱走』©1963 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. and John Sturges. All Rights Reserved.

 ソフト初収録となる2000年『木曜洋画劇場』版も、さすがは超有名作の新録吹替だけあって気合十分、当代きっての実力派声優が揃い踏み。野沢那智、池田勝、小川真司、菅生隆之、銀河万丈、平田広明、小山力也らが名を連ねる豪華キャストはまさに壮観だ。特筆すべきは、やはりヒルツ(スティーヴ・マックイーン)役で堂々の主演を務めた、安原義人の快演だろう。軽妙洒脱で飄々としたセリフ回しのなかに、シリアスな熱い闘志を覗かせる絶妙な演技は、まさにヒルツそのもの。この名演がBlu-rayで楽しめるようになっただけでも、本ソフトの功績は非常に大きい。

 なお、2枚組の「SPECIAL」版には、総計3時間超におよぶ大ボリュームの特典ディスクも収録。既発ソフトの映像特典を網羅するだけでなく、ジョン・スタージェス監督の駆け出し時代から『大脱走』に至るまでの軌跡を、映画評論家マイケル・スラゴウが語る新規映像「スタージェスと『大脱走』」も追加されている。『日本人の勲章』(1955年)や『荒野の七人』(1960年)といったスタージェスの過去作も併せて観返したくなる、非常に興味深い内容だ。

『若き勇者たち』

『若き勇者たち』©1984 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

 2本目は、ジョン・ミリアス監督の反共ファンタジーアクション『若き勇者たち』(1984年)。米ソ冷戦末期の1980年代、アメリカの片田舎にソ連・キューバ連合軍が突如侵攻。からくも山奥に逃げ延びた地元の若者たちが、山岳ゲリラとなって死闘を繰り広げる仮想戦争活劇だ。原案・共同脚本は、のちに『レッド・アフガン』(1988年)や『ウォーターワールド』(1995年)を監督するケヴィン・レイノルズ。日常生活や文明社会から遠く離れたシチュエーションでの「死闘」にこだわる、レイノルズの原点とも言える青春サバイバル群像劇でもある。

 メインキャストには、パトリック・スウェイジ、チャーリー・シーン、リー・トンプソンといった当時の若手注目株をこぞって起用。彼らにブレイクの契機を与えた作品としても、米国民の反共独立精神を大いに刺激した娯楽作としても、いまだに根強い人気を誇っている。『地獄の黙示録』(1979年)の脚本家でもあるジョン・ミリアスならではの物々しいミリタリー描写、ド派手な戦闘アクションの数々も見どころだ。

 こちらには1987年放送のTBS『月曜ロードショー』版の吹替を初収録。オリジナルキャスト同様に、声優陣にもフレッシュな顔ぶれが揃っている。ゲリラのリーダー格となるジェド(パトリック・スウェイジ)役は、現在も不動の人気を誇る池田秀一。頼れる兄貴分でありながら、精神的な脆さも滲ませるスウェイジの繊細な演技を、声の芝居においても的確に表現している。そのほか、兄のジェドと最後まで行動を共にする弟マット(チャーリー・シーン)役の堀内賢雄、サバイバル生活のなかで闘争心に目覚めていくロバート(C・トーマス・ハウエル)役の吉村よう、トラウマを負いながらたくましく成長する少女エリカ(リー・トンプソン)役の岡本麻弥など、当時20~30代の声優陣が集結。ナイーブな心理表現と激しいアクションをともに表現しなくてはならない主人公たちを熱演し、観る者の胸を熱くさせる。

 また、彼らを取り巻く大人たちを演じるベテラン声優陣にも注目。特に、強制収容キャンプに送られるジェドとマットの父親トム(ハリー・ディーン・スタントン)役の青野武、若者たちに戦闘術を指導するタナー中佐(パワーズ・ブース)役の津嘉山正種は、劇中の数少ない「信頼できる大人」を説得力をもって演じ、忘れがたい印象を残す。

 映像特典には、スタッフ・キャストのインタビューで構成された新規ドキュメンタリー「“若き勇者たち”を振り返って」を初収録。のちのスターを数多く発掘したキャスティング秘話、業界きっての現場嫌いでもあるミリアス独特の演出法、ソ連軍の戦車や武器を再現した美術スタッフの苦労、爆破シーンで起きた驚愕のアクシデントなど、貴重な制作時の逸話が1時間超にわたって語られる。そのほか、既発ソフトの映像特典も収録(こちらは日本語字幕を初搭載)。ファン必携の1枚となっている。

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