『舞いあがれ!』貴司を通して説く言葉の無限性 人間の“ものづくり”の第一歩を感じて

『舞いあがれ!』が説く言葉の無限性

 君を幸せにするのはどんな言葉だろう、というような歌詞が主題歌「アイラブユー」にある。『舞いあがれ!』(NHK総合)は空と経済の話ともうひとつ、言葉の物語でもある。空と経済は舞(福原遥)、言葉は貴司(赤楚衛二)が担っている。経済は、悠人(横山裕)が担当とも言えるだろう。

 第22週は舞が起業した一方で、貴司が子供に短歌を教える旅をする企画をリュー北條(川島潤哉)に持ちかけられる。貴司は混沌とした気持ちを言葉にして明確に自覚することがまだできない子供たちに、その扉を開く手助けをしようと考える。そもそも、彼自身が八木(又吉直樹)にそうしてもらったから歌人になって生きづらさを払拭できた。

 五島では朝陽少年(又野暁仁)が自分の感情がわからず癇癪をおこしてしまうのを、感情を文字にして整理することを教えることで救うことができた。第22週では、デラシネの常連だった陽菜(徳網まゆ)の気持ちに手を差し伸べる。

 中学になった陽菜は「やばい」「かわいい」「きもい」を使っていれば済むコミュニティーに染まりかかり、仲が良かった大樹(中須翔真)のことを、仲間と一緒になって「きもい」と言ってしまったことに罪悪感を覚えていた。

 分厚い辞典を開いて、言葉はこんなに要らないのではないかと問いかける陽菜に、たくさんある言葉から自分の気持ちにフィットするものを見つけるものだと貴司は答える。

 陽菜が大樹を避けているのは、「会いたないんか、合わせる顔がないんか」と今度は貴司が問いかける。“避ける”という態度をひとつとっても、そこには多様な意味がある。本心から会いたくない場合と、うしろめたい場合、会いたいけれど会えない逡巡……など。他者の気持ちはわからなくて当然だが、自分の気持ちも案外わからないこともあるものなのだ。

 第22週、第102話では、東大阪、町工場ネットワークのひとり・小堺(三谷昌登)が、オープンファクトリーに参加できない状況を嘆き、荒っぽい言動で場を乱す。が、御園(山口紗弥加)は、気持ちをどこにぶつけていいのかわからないのではないかと理解を示す。御園の父もかつて町工場を営んでいたが潰してしまった。そのとき父は小堺のように荒れなかったが、心のなかではどんな思いだったのかと御園は想像するのだ。

 陽菜にしても、小堺にしても、屈折した言動の裏にある本音を誰かに慮られることで、救われる。陽菜はデラシネに戻って大樹に謝罪し、小堺は金網を使った商品開発をはじめ希望をつなぐことができた。

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