『舞いあがれ!』貴司を通して説く言葉の無限性 人間の“ものづくり”の第一歩を感じて

『舞いあがれ!』が説く言葉の無限性

 小堺の気持ちに気づけた御園だが、新聞記者という仕事は、がんばっている人をのぞきにいっているだけではないかと自虐する。自分もがんばっている側に回りたいと考えはじめ、舞に起業を促し、会社を辞めて、新規事業に乗っかることを決める。彼女のこの言動も、もしかしたら、記者から営業に異動になった忸怩たる思い故かもしれない。

 ところが、制作統括の熊野律時チーフ・プロデューサーは取材会で、営業がいやで新聞社を辞めたわけではないと語った。それはまた、記者職と営業職を比較してはいけないという配慮であろう。あちらを立てればこちらが立たず。全員を平等に扱うことは極めて難しい。書くことを、伝えることを生業としている筆者としては御園には記者の仕事に矜持と執着を持っていてほしかった。だから、舞に伝える大事な仕事だと言われて救われてほしいし、ものづくりをのぞいているだけというのも小堺や陽菜のような複雑な想いから出たものと解釈したかったのだ。

 ただ熊野CPは御園は町工場の娘なのでものづくりをやりたくなったとも語っていて、記者よりも製造業に興味がもともとあったのだとしたら、自分の本音に気づくことができて、それを彼女なりの言葉にしたということなのかもしれない。

 このように、こちらの解釈と先方の思いが食い違っていることもあるもので、それを取材によって確認し、相手が伝えたい言葉を記事にすることは大事だと感じるので、御園にはその仕事をがんばってほしかった。

 言葉を使って伝える達人である新聞記者キャラの登場だったが、言葉で伝える役割は貴司に託され、御園は舞の仕事のパートナーになって、舞の活動を協力していくことになるようだ。御園が言葉で伝える仕事の限界を感じるところにはじまって、貴司が言葉の無限性を説くのである。

 ただ、ブログもオープンファクトリーも起業も、すべて御園が舞にすすめたものである。舞の言葉にならない感情を言葉にして明確にさせる役割を果たしているのかもしれない。

 舞は舞で、第105話で悠人に認めてもらえる起業の計画書を作っていて、「プラン立ててたらぼんやりしてた夢がはっきり形になってきた気がするねん」と貴司に言う。彼女もまた、混沌としたエネルギーを企画という言葉にして向かう方向を決めている。

 人を笑顔に幸せにする言葉とは何か。夢も希望もないのではなく、誰ものなかにあるエネルギーを言葉にすることで活用できる。もしかしたら、言葉こそ、人間が行えるものづくりの第一歩なのではないか。

 ドラマはあと4週。舞は必ず“舞いあがる”らしいが、それはもう一度、飛行機に乗ることだろうか。それとも「舞いあがる」を掛け言葉的に使ったものであろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
総合:8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK

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