『舞いあがれ!』『ちむどんどん』『スカーレット』 朝ドラが肯定する人生の“遠回り”

『舞いあがれ!』朝ドラが肯定する“遠回り”

 残り1カ月となり、いよいよ着陸態勢に入った感のある福原遥主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『舞いあがれ!』。

 父の死後、母が経営を引き継いだIWAKURAを支える中で営業のエースとして成長する一方、幼なじみで歌人&古本屋・デラシネ店長の貴司(赤楚衛二)と結婚、東大阪の町工場を盛り上げるために励む舞(福原遥)の姿を微笑ましく見守っている視聴者は多いだろう。

 しかし、その一方、SNSでは「結局、パイロットになる話じゃなかったの?」「ネジ製造で終わりそうで残念」「町工場の話だったのか」というつぶやきも多数見られる。なかには「航空学校編とは一体何だったのか」と、ヒロインの回り道の人生に疑問を示す声もある。

 しかし、朝ドラ前作『ちむどんどん』では主人公・暢子(黒島結菜)がイタリア料理修行を経て沖縄料理店を開業したし、『スカーレット』では主人公・喜美子(戸田恵梨香)が女中→絵付け師→陶芸家にと転身している。

 そもそも古くは『雲のじゅうたん』を筆頭に、『はね駒』『ふたりっ子』『カーネーション』『あさが来た』『おちょやん』『エール』のように、歴代朝ドラ作品を振り返ると、ひたすら夢に向かって邁進するケース、幼い頃から憧れや並々ならぬ執着・才能を示し、 “天職”につくようなケースは、むしろ全体としては少数派だ。では、朝ドラが描く遠回りの人生とは――。

 遠回りの要因として、古くは『風見鶏』『なっちゃんの写真館』あたりから最新でも『てっぱん』あたりまで存在していた、実家や夫の後を継ぐ例はあるが、これらは近年かなり少なくなっている。

 一方、古くは家事手伝い→カフェのウェイトレス→保母(保育士)の道を歩んだ『わたしは海』や、ダンサー→里親→OLも経験した『瞳』、実家の和菓子屋手伝い・母親の代役→ラジオリポーターの『つばさ』など、遠回り人生の主因の多くが “自分探し”だった。東京から北三陸に移住して海女になり、やがて地域アイドルの道を歩む『あまちゃん』もこの系譜ではあるだろう。

 そんな中、東日本大震災以降、度重なる災害からコロナ禍の現在に至るまで、本人の内的動機によらない「不可抗力の遠回り」が増えていく。

 例えば、『半分、青い。』の主人公・鈴愛(永野芽郁)は、少女漫画家になる夢を追いかけ、一時は連載もするが、漫画家としての限界を感じて断念。ここまでは通常の朝ドラの自分探しパターンと同じだが、OLを志望して就職活動しても仕事が決まらず、100円ショップで働き始め、結婚、離婚、職探しに苦戦し、家業を継ごうとしたり、事務員になる機会を得て上京するも、その会社が倒産したりと紆余曲折合った末に、幼なじみの律(佐藤健)と扇風機開発をするという、曲がり角だらけの人生を歩んだ。

 その遠回り具合には鈴愛という強烈な個性が少なからず影響しているとはいえ、バブル崩壊後の経済の低迷、就職難などの時代の波に、とりわけ学歴や職歴を持たない鈴愛が巻き込まれた面は否めない。

 広瀬すず主演の『なつぞら』もまた、戦災孤児の主人公・なつが十勝の柴田家に引き取られ、幼なじみの天陽(吉沢亮)の影響で絵が好きになり、後に牧場の手伝いをしながら酪農を継ぐ道と、アニメーターになる道で迷い、苦悩する。なつがどこでも誰にでも愛され、「開拓者精神」で開拓していくというご都合感ある物語は批判もされたが、出発点には戦災孤児として引き取られた恩義と戦争の傷跡があった。

 また、忘れられないのは、芸術に生きたヒロインを描く戸田恵梨香主演の『スカーレット』だ。『スカーレット』というと真っ先に思い出されるのは、穴窯に憑りつかれ、失敗しては損失を出し、息子の学費まで注ぎ込んでまで邁進していった狂気を孕んだ主人公・喜美子の情熱だろう。しかし、その人生はまさに遠回りの連続だった。

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 小さな頃から絵の才能はあったが、父親の事業失敗による借金で信楽に転居し、貧困家庭の長女として中学を卒業後は、大阪で薄給ながら女中を始める。その傍ら、美術学校への進学を志してコツコツと内職でお金を貯めてきたが、実家の家計のひっ迫状態を知り、進学を諦め、帰郷。家のために丸熊陶業の食堂で働き始め、火鉢の絵付けに魅了され、絵付け師・フカ先生(深野心仙先生/イッセー尾形)に弟子入りし、信楽初の女性絵付け師に。そんな中、八郎(松下洸平)と出会い、彼が陶芸をする姿を見て、恋すると共に自身も陶芸をやりたいと思い始める。八郎が賞をとったことで結婚を父に認められたが、2人が陶芸家として独立し、工房を立ち上げると、喜美子は才能を開花させ、反比例するように八郎の創作意欲は減退、喜美子への嫉妬心を抱き始め、パワーバランスが逆転してしまう。やがて2人は離婚し、喜美子は陶芸家としての道と共に、新しい家族のあり方も模索することになる。

 「近道はオススメしない。なるべく時間をかけて歩く方が力がつく」と言ったフカ先生の言葉は、陶芸家としての道だけでなく、人生の歩き方も示唆していたかのようだ。

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