『かがみの孤城』辻村深月×原恵一の作家性が見事に合致 大人にも響く力強いメッセージ
アニメ映画『かがみの孤城』が、確かな評価を得ている。各種レビューサイトでは高い評価を記録し、SNSでも「感動した」という口コミが数多く書き込みされている。筆者も鑑賞した際に、思わず静まり返った劇場内で「嗚咽をもらしてしまうのでは」と思うほどの感動が押し寄せてきた。今回は『かがみの孤城』の魅力について、原作者の辻村深月と原恵一監督の過去作を比較しながら迫っていきたい。
『かがみの孤城』は、直木賞作家の辻村深月の同名原作を『カラフル』や『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』で知られる原恵一が監督を担当、脚本は原監督作品で多くのタッグを組んできた丸尾みほが務めている。アニメーション制作は『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』など、多くの人気作を生み出しているA-1 Picturesが手がけた。
物語は学校生活でトラブルを抱えてしまい不登校となった主人公こころが、部屋に置かれた鏡の光に誘われると、不思議なお城に辿り着くところから始まる。城の中には同年代の少年少女6人が集められており、オオカミの仮面を被った少女に、期限である約1年以内にこの城のどこかに隠された鍵を探すこと、そして鍵を見つけると願いがなんでも叶うと告げられる。7人は時に衝突を重ね交流を深めながらも、孤城に隠された秘密を探究していく。
原作は第15回本屋大賞にて過去最多投票で1位に輝くなど、高い評価を獲得している。辻村深月が原作を務めた作品としては、2022年でも『ハケンアニメ!』が各種映画賞で高く評価されるなど、実写・アニメを問わず、映画作品の原作者としても注目の作家であることは間違いない。
辻村の作家性として“社会に馴染めない人々に寄り添う群像劇”がある。特に初期の作品では学校に馴染めない学生たち1人1人に寄り添い、その内面を深く掘り出す作風が目立ち、今作はデビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』の延長線上にあると言えるだろう。また、『スロウハイツの神様』や『ハケンアニメ!』は、クリエイターを扱った群像劇で、こちらも苦悩する人々を優しく包み込むような作品だ。
この原作を映像化した原監督は『クレヨンしんちゃん』シリーズを多く手がけるなど、ギャグ作品を得意とする印象もある。一方で近年は『カラフル』のように、中高生に向けた真面目な作風も目立つ。思えば『クレヨンしんちゃん』シリーズもまた、しんちゃん特有のギャグ描写の中に、原監督の真面目さが光り、それがバランス良く成立していた。
原監督作品を観ていると、その時代や環境で生きる人々に向き合った物語が多いことに気が付く。『百日紅 ~Miss HOKUSAI~』では、葛飾北斎の娘で、浮世絵師として活躍したお栄が、偉大な父親に尊敬と反発を繰り返しながらも、クリエイターとして成長していく姿を実直に描き出した。また多くのアニメファンの中で名作と名前があがりやすい『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』『映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』でも、大人たちのドラマを丹念に切り取っていた。その時代に生きる人々を実直に描き出すからこそ、生まれる感動が原監督作品には宿っている。
この2人の作家性が見事に合致したのが『かがみの孤城』だ。学校生活において懸命に生きる子どもたちは当然のこと、そして支える大人たちにきちんと焦点を当てることによって、単なる子どもたちだけのドラマではない、重層的な物語となっている。