2022年最後の動員ランキングが示す「新しい映画興行」の現実

2022年最後の動員ランキングが示す現実

 2022年最後の発表となった先週末の動員ランキング。12月3日に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』が4週連続で1位、つまり12月を通してトップを独占することとなった。土日2日間の動員は30万2000人、興収は4億6200万円。公開から23日間の累計動員は340万7275人、累計興収は50億6702万9010円。『THE FIRST SLAM DUNK』の予想以上の大健闘は、先週末2位の『すずめの戸締まり』や、先週末3位の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』にとって大きな誤算となったはずだ。

 ウィークデイに入ってからの推移もふまえてより正確を期するなら、年末年始の正月興行で波に乗ることに成功しているのは『THE FIRST SLAM DUNK』と、ここにきてさすがの粘りを見せている『すずめの戸締まり』の2作品。日本以外のほとんどの国では引き続き興収トップを独走している『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』、そして滑り出しは好調だった『Dr.コトー診療所』『ラーゲリより愛を込めて』の実写日本映画2作品は、何馬身も引き離されてそのトップ2の背中を眺めている状況となっている。

 それをもって「国内アニメーション作品強し」とするのは大筋においては間違いではないのだが、だからといってすべての国内アニメーション作品が期待以上の数字を残しているわけではない。例えば、先週末6位に初登場した『かがみの孤城』のオープニング3日間の興収は1億4643万7130円。深夜テレビアニメの映画化作品のような固定のファンダムを持たない作品であることを考えると、平常時ならば決して悪い数字ではないが、松竹配給の正月映画としては東映の『THE FIRST SLAM DUNK』、東宝の『すずめの戸締まり』と比べるべくもない結果となっている。『かがみの孤城』、特に10代の観客にはオススメのなかなかの秀作なんですけどね。

 海の向こうを見渡せば、相変わらず『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のような超強力な作品が公開されると、他のオスカー候補的作品が観客からまったく見向きもされない中、週末の全興収の90%前後が一つの作品に集中するというような事態がコロナ禍以降ずっと続いている。そう考えると、『Dr.コトー診療所』や『ラーゲリより愛を込めて』のような中ヒット作品がそこそこ生まれている日本の興行の方がまだ健全だと言うこともできるだろう。

 いずれにせよ、特定の作品に観客が極端に集中する傾向は、どうやらコロナ禍を経て、世界的に映画興行界の「常識」となりつつある。その当然の成り行きとして、今後のメジャー配給の劇場公開作品は国内外問わずより安全な企画、言い換えるなら計算が立つフランチャイズ作品にさらに偏重していくに違いない。そして、ここ日本ではその「特定の作品」の中に国内アニメーション作品以外が割り込むのはますます難しくなっていくだろう。

■公開情報
『かがみの孤城』
全国公開中
声の出演:當真あみ、北村匠海、吉柳咲良、板垣李光人、横溝菜帆、高山みなみ、梶裕貴、矢島晶子、美山加恋、池端杏慈、吉村文香、藤森慎吾、滝沢カレン、麻生久美子、芦田愛菜、宮﨑あおい
監督:原恵一
脚本:丸尾みほ
キャラクターデザイン・総作画監督:佐々木啓悟
ビジュアルコンセプト・孤城デザイン:イリヤ・クブシノブ
音楽:富貴晴美
主題歌:優里「メリーゴーランド」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
企画・製作幹事:松竹、日本テレビ放送網
原作:辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社)
制作:A-1 Pictures
配給:松竹
©︎2022「かがみの孤城」製作委員会
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/kagaminokojo/

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