『水星の魔女』が新規層を獲得した要因 “継承と挑戦”の見事なバランス

『水星の魔女』が新規層を獲得した要因

 近年、面白いアニメが多く登場するものの、過去に人気のあった漫画作品の再アニメ化も目につく。懐かしさで嬉しい気持ちになるのと同時に、「10代・20代の若いファンがどれだけ楽しめているのだろうか?」と疑問に思うこともある。その世代間の受け止め方の違いは『機動戦士ガンダム』のような歴史の重みがある作品だと、より強く変化する。今回は現在放送中の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』から、伝統の継承と新しき挑戦について考えていきたい。

 本作のプロデューサーを務める岡本拓也は、インタビューにて以下のように述べている。

『水星の魔女』に込められた『ガンダム』の“自由”さ 岡本拓也プロデューサーに狙いを聞く

“ガンダム”とひとくちに言っても、そのシリーズの広がり方は果てしなく膨大だ。原点である『機動戦士ガンダム』(1979年)から始ま…

「(若い世代と話している際に)その時に“ガンダムは僕らの世代に向けたものじゃない”とか、“タイトルにガンダムって付いていたら観ません”という言葉がありました」

 この指摘は重い。ガンダムといえば、ロボットアニメの代表的な作品であり、そのものが1つのジャンルと言えるほどに多様な作品が誕生している。1979年に放送が開始された初代『機動戦士ガンダム』から40年以上愛され続けた、歴史のあるコンテンツだ。だが、一方でその歴史こそが、“年配者向け”という意識を生み、若い世代を拒むことにつながっていた。

 近年は、『機動戦士ガンダム』と関連する宇宙世紀の作品が2010年代に多く発表された。『機動戦士ガンダムUC』、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』などが、それに当てはまる。

 もちろん、作品のクオリティが高く面白い作品が並び、若い世代にもヒットしうるポテンシャルを秘めていたことは間違いない。しかし、初代ガンダムを知った上で鑑賞することが前提となっている一面も少なからずあり、“ガンダム初心者”が一連の作品に足を運ぶハードルは高かったかもしれない。これらの宇宙世紀ガンダムは、歴代のガンダムを愛するオールドファンの心を掴む企画ではあるが、同時に敷居が高いイメージを助長していた可能性も否定はできないだろう。

 また、新作が発表されるたびに「今回の作品はガンダムらしくない」という言葉も散見される。「ガンダムらしさ」という言葉は一言では語りづらく、視聴者一人一人の中に根付いているだろう。現代のアニメ・漫画では考察文化が盛んであり、過去作の引用を見つけながら、登場キャラクターやモビルスーツ、世界観などの設定について考察を重ねていくが、その風潮が軽い気持ちで楽しむことを拒んでいる気がしてしまうことも想定できる。

 もしかしたら、一部のファンの中には今までの文章を読んで、ロボットアニメという呼称に「ガンダムはロボットではない」と反感を抱くかもしれない。これだけ長く続いたシリーズだと、熱心なファンが多くいることが、却って若者の参入障壁となっているのだろう。

 だが、本来はガンダム作品とは変化に積極的に挑んだシリーズだ。『機動戦士ガンダム』は今でこそ王道のロボットアニメ作品のように扱われているが、アニメの流れそのものを大きく変化させた一作でもある。

 当時のロボットアニメは『マジンガーZ』のように、特定の博士が作った特別な機体に主人公が乗るという展開が主流だった。『機動戦士ガンダム』は、これらをモビルスーツと呼称し、企業によって量産され、戦車や戦闘機の延長にある兵器として描写した。さらに大きな2つの勢力が対抗する戦争として描くことで、よりリアルな世界情勢や大人の駆け引きなどを描くことに成功した。まさに当時のロボットアニメの定型から変化させ新しい表現に挑戦した、革新的な作品であった。

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