『水星の魔女』が新規層を獲得した要因 “継承と挑戦”の見事なバランス
そして富野由悠季が模索した、ガンダムというシリーズそのものを変革させるような試みのある作品も多く登場する。シリアスな戦争ものというイメージを一掃した『機動武闘伝Gガンダム』、男性向けのイメージから変化し、女性ファンを多く獲得した『新機動戦記ガンダムW』や『機動戦士ガンダムSEED』などの存在が象徴的だろう。統計的なデータはないものの、2000年代は、ガンダムシリーズは男性ファンよりも、むしろ女性ファンの方が熱心なシリーズではないか?という思いを抱くほどの熱量があった。何よりも富野由悠季自身こそ、ガンダムらしさを否定し、変革しようと模索する作品を生み出している。
その精神は『水星の魔女』にも受け継がれているように思う。女性主人公という点もさることながら、学園ものとすることで、新しいファンが入門しやすいように工夫を凝らされている。ガンダムシリーズでは『新機動戦記ガンダムW』のように、学園からスタートする作品もあるものの、今作は戦争・テロリズムなどを中心としないことで、より特色が出ているだろう。
一方でガンダムらしさも継承している。世界描写にも地球出身者のアーシアンを見下す宇宙出身者のスペーシアンという構図が用いられ、差別的な感情があることを示唆している。これは『機動戦士ガンダム』であった地球連邦と宇宙で暮らすコロニーの対比関係を逆転させた設定と言えるだろう。
また目につくのは親、あるいは大企業のしがらみによって自由を奪われた子どもたちという構図だ。登場するキャラクターたちは、生まれた場所、あるいは親の影響、企業の思惑など様々な大人に事情に従って生きることを強制されれている。主題歌であるYOASOBIの「祝福」の「誰かのイメージではなく自分でストーリーを作ろう」という趣旨の歌詞からも、メインテーマとなりうることを感じさせる。そして親や大人の事情に振り回される子どもたちというのも、多くのガンダム作品で描かれてきたテーマだった。
『水星の魔女』はそのガンダムらしさという旧来の伝統と、新しい試みという点において、とてもバランスよく作られている。その結果、今のところガンダムに馴染みの薄かった新しい層を巻き込むことにも成功しているようにも見える。ガンダムというシリーズの高齢化を防ぎ、50周年以降を見据えるためにも、本作の挑戦とスレッタの物語から目が離せない。
■放送情報
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
MBS/TBS系全国28局ネットにて、毎週日曜17:00〜放送中
企画・制作:サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:小林寛
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:モグモ
キャラクターデザイン:田頭真理恵、戸井田珠里、高谷浩利
メカニカルデザイン:JNTHED、海老川兼武、稲田航、形部一平、寺岡賢司、柳瀬敬之
音楽:大間々昂ほか
声の出演:市ノ瀬加那、Lynn、阿座上洋平、花江夏樹、古川 慎、宮本侑芽、富田美憂ほか
©創通・サンライズ・MBS
公式サイト:https://g-witch.net/
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