『エルピス』があぶり出す罪と罰の不均衡 長澤まさみ演じる恵那が気付いたメディアの原罪

『エルピス』があぶり出す罪と罰の不均衡

 罪を犯していない人間が罰され、本来罰されるべき人間が生き延びる。では罰されるべき罪とは何なのか? 『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系)第2話は、この社会が持つ罪と罰の実体が明らかになった。

エルピスー希望、あるいは災いー

 八頭尾山連続殺人事件の真相を探ると決めた恵那(長澤まさみ)だったが、『フライデーボンボン』での企画は却下され、自ら調査に乗り出す。ヘアメイクのチェリーことさくら(三浦透子)によると、犯行が起きたとされる2006年11月18日、死刑囚の松本(片岡正二郎)は誕生日だったさくらのためにケーキを買い、家でカレーを作って待っていた。犯行当日の松本の行動は弁護側と検察側で食い違っており、恵那は自ら現地に赴き松本の足どりを検証する。弁護側は、松本が午後5時3分に工場を退勤した後、5時27分にスーパーで食材を買い求め、5時40分にケーキを購入してから、5時52分に帰宅したと主張。しかし、検察は松本がケーキを購入した後、自転車で4.8キロ離れた八頭尾山へ向かったとする。6時ごろ到着した松本は、下校中の井川晴美(葉山さら)に声をかけて山中で殺害。6時35分にあわてて立ち去る姿が目撃されている。6時50分に帰宅し、そこから10分あまりでカレーを作ったことになる。

 担当弁護士の木村(六角精児)によると、松本は「普通のおっちゃん」であり、「検察が言うような偏執的な性的異常者でもなく、残虐性などみじんも感じられない。気が抜けるほどまともで、ちょっと気の小さい中年男」。松本の自供はマスコミの報道にあおられた警察の強要によるもので、そのことは松本の手紙からも裏付けられた。松本を冤罪と言い切る木村の言葉は辛辣だった。

 「大きな権力というのは、それはそれは簡単に自分たちの都合で弱いもんを踏みつぶすもんですよ。(中略)決まって選ばれるのは潰した時にあまり大きな音を出しそうにないものたちです」と木村。松本は捜査機関の都合で犯罪者に仕立てられた生贄のようなものであると言うのだ。木村は死刑囚の置かれた状況にも言及。死刑執行は法務大臣の権限で行われるため、収監されるといつ刑が執行されるか定かではなく、当日、何の前触れもなく刑の執行を知らされる。毎朝、看守の足音に恐れおののき、自分の番ではないと知ってほっと胸をなでおろす死刑囚の逸話はよく知られている。

エルピスー希望、あるいは災いー

 木村の言葉に加えて松本の独白も真に迫るものがあり、冤罪が人為的に生み出されたものであることがわかるが、もしこれが自分の身に起きたらと考えるとぞっとする。何もわからず、声を発することもできないまま命を奪われるのだ。本来罰されるべきではない冤罪を生み出すのは警察や検察、マスメディアであるが、極端なケースをのぞいて彼らが罪に問われることはない。反対にひとたび容疑者として実名で報道されれば、社会的制裁を受け、たとえ無罪でもその後の人生に支障が出る。明らかにバランスを欠いた一方的な構図がそこにはある。

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