『ゴーストブック おばけずかん』と『学校の怪談』から考える、児童映画の“教え”の変化

『ゴーストブック』と『学校の怪談』を比較

 これは物語の核心に触れる部分であるが、病床にいるはずの少女が元気な姿で異世界に現れるという点は『学校の怪談』で岡本綾が演じた小室香織と重なる設定だ。とはいえ死の直前で学校への強い想いをもって生きた子どもたちと心を通わす香織に対し、本作の湊の登場する目的は、すでに心を通わせている親友たちの願いに応えること。タイムリープという荒療治によって彼女が死の淵から救出されるというプロットは、過去を変えてはならないSFの暗黙のルールを破るものであり、また元来このような児童映画が持ち合わせるべき“教え”が欠落してしまっている。そして彼らが一連の冒険の記憶を失ってしまうというのも、大人から観ればずいぶんと寂しい結末である。

 ただ興味深いのは、異世界から現実世界へと戻るプロセスである。『学校の怪談』では校舎の上層階から“落下”することで現実世界へのプールにダイブして戻ってきた。『学校の怪談2』では校舎の花壇を“上昇”し、『3』では境界空間をまっすぐに駆け抜けてきた。本作においては、境界をくぐり抜ければすぐに現実世界へ戻ることができ、プロセスよりも結果を求めるタイムパフォーマンス重視の現代らしい。瑤子先生の家がカラクリ屋敷と化し、落下するにふさわしい窓が用意されたのに機能しなかったのは勿体ない部分ではあるが、異世界への未練を一切持たない/持たせない情緒の排除は潔い。もっともそれだけで、現実世界を希求すべしという新たな“教え”を生んでいると捉えることができる。

 余談ではあるが、映画の序盤で主人公の一樹の両親を『ジュブナイル』の遠藤雄弥と鈴木杏が演じているというサプライズに触れないわけにはいかない。しかも苗字が“坂本”であり、部屋にもテトラがいるからには、2人はユースケとミサキと同一人物だと判断できる。ふと思い出して『ジュブナイル』の公開時のパンフレットを読んでみると、山崎監督は二人のその後について語っていた。ミサキは宇宙ステーションに就職し、ユースケは技術開発者になり、26歳(2014年前後だろう)で再会して5年の歳月を経て結婚するのだという。『ジュブナイル』の2020年のシーンでも「新婚さん」と呼ばれており、一樹の年齢を考えれば『ゴーストブック』は2030年代の近未来ということになる。『ジュブナイル』ファンとしては、パラレルや単なるサービスではない連動があると信じておきたい。

 今回の『ゴーストブック』の劇場パンフレット(子役たちのプロフィールにいろいろなアンケートが用意されているのも『学校の怪談』シリーズへのオマージュじゃないか!)で山崎監督は、“将来の夢”として「オリジナル企画を成立させたい」と書いている。これはつまり、『ジュブナイル』の前から企画しているというアドベンチャー映画『鵺』のことだろうか。もちろん20年以上それを待っている身としては観たくてたまらないものだ。それと同時に、今回のような映画も毎年コンスタントに作っていってもらいたい。つまり本格的な『学校の怪談』のリブートを、山崎監督のもとでやってもらえないだろうか。

参考

※1 https://realsound.jp/movie/2022/07/post-1082549.html

■公開情報
『ゴーストブック おばけずかん』
全国公開中
出演:城桧吏、柴崎楓雅、サニーマックレンドン、吉村文香、神木隆之介、新垣結衣
監督・脚本・VFX・ストーリー原案・キャラクターデザイン:山崎貴
原作:斉藤洋・作/宮本えつよし・絵『おばけずかん』シリーズ(講談社刊)
主題歌:星野源「異世界混合大舞踏会(feat. おばけ)」(スピードスターレコーズ)
音楽:佐藤直紀
制作プロダクション:ROBOT
制作協力:TOHOスタジオ、阿部秀司事務所
配給:東宝
製作:東宝、講談社、白組、ROBOT、阿部秀司事務所ほか
(c)2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会

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