平岳大が明かす、海外と日本の制作環境の違い 盟友ウィル・シャープ監督の最新作を観て

平岳大がウィル・シャープの最新作を語る

俳優・監督であるウィル・シャープの天才ぶり

――この「ランドスケーパーズ」というタイトルを、どんなふうに捉えましたか?

平:要するに「ガーデナー(造園家)」の大きい版みたいなことですよね。イギリスの一軒家にあるような小さい庭は「ガーデン/garden」だけど、「ランドスケープ/landscape」というと、もっと大きい景色や景観みたいなものを表すんです。だから、庭に手を入れて、自分の好きなように変えていく人――「ガーデナー」のもっとスケールの大きい感じの人たちというか、自分たちの思うように、目の前の世界を作ってしまった人たち。そういう意味で、「ランドスケーパーズ」というタイトルなのかなって捉えました。いろんな解釈がありそうですね。

――そういうニュアンスだったんですね。先ほどから平さんが絶賛している、本作の監督であり、なおかつ平さんが主演されたイギリスのドラマ『Giri / Haji』(2019年)の共演者でもあるウィル・シャープですが……彼は一体、何者なのでしょう?

平:僕は『Giri / Haji』の現場で、初めて彼と出会ったんですけど、お母さんが日本人で、日本人とイギリス人のハーフなんですよね。なので、日本語も話せて……8歳くらいまで日本にいて、そのあとイギリスにきて、ケンブリッジ大学で古典の勉強をしていたと言っていたかな? そこから演劇の世界に入って……『Giri / Haji』の数年前に『Flowers(原題)』(2016年〜2018年)というコメディドラマを自分で書いて監督もして、その作品で注目を集めたんですよね。『Flowers』は、ご覧になられましたか?

――残念ながら、日本では観られないようです。

平:そうなんですね。そのドラマは、オリヴィア・コールマンが主演で、ウィルも出演しているんですけど、結構ブラックな感じのコメディドラマで、すごい面白かったんです。それから「シスター・ピクチャーズ」っていう今回の『ランドスケーパーズ』の制作もしている制作会社と、よく仕事をするようになったみたいで、『Giri / Haji』もシスターの制作だったんですけど。

――ということは、ドラマ『チェルノブイリ』(2019年)の制作会社でもあるわけで……すごい気鋭の制作会社じゃないですか。

平:そうなんですよ。結構いろいろと面白いドラマを作っていて。『ランドスケーパーズ』のプロデューサーが、『Giri / Haji』と同じ人なんです。そのプロデューサーが、ウィルのことを買っているというか、彼の才能にすごい期待しているところがあるみたいですね。

『ランドスケーパーズ 秘密の庭』撮影の舞台裏:"MITH”編

――僕は『Giri / Haji』の「男娼・ロドニー」役で、初めてウィル・シャープのことを知って、その彼が、この『ランドスケーパーズ』では監督をしているので、「どういうことなんだろう?」と思っていました。

平:そうですよね(笑)。この前、ベネディクト・カンバーバッチ主演で『The Electrical Life of Louis Wain(原題)』(2022年冬日本公開予定)という映画を監督して、イギリスでは映画監督としても、認められる存在になっているみたいです。

――まさに、気鋭の監督でもあると。『Giri / Haji』では、平さんとの共演シーンも多かったと思いますが、実際はどんな人なんですか?

平:普通の人ですよ(笑)。僕より10歳以上若いけど、物腰の柔らかいジェントルマンで。『Giri / Haji』の撮影の初日が、彼と一緒のシーンだったんですけど、彼の芝居があまりにも上手過ぎて。それで、「無理だ。俺にはあんな芝居はできない……」って、実はかなり落ち込んでいたんです。そしたら帰りの車の中で、彼が「大丈夫だよ」ってすごい励ましてくれて、やさしい男なんですよ(笑)。

――そんなエピソードが(笑)。彼はケンブリッジで古典を学んだ後、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)に在籍していたことがあるなど、古典演劇のトレーニングをかなり受けているようですね。『ランドスケーパーズ』の演出は、かなり大胆な感じのものでしたけど。

平:イギリスの方って、古典をやればやるほど、アヴァンギャルドな感じになっていく傾向があるような気もするんですよね。日本の歌舞伎の方とかもそうだと思うんですが、市川猿之助さんのスーパー歌舞伎がいちばんわかりやすいけど、古典をやればやるほど、斬新な表現をしたくなるのかなって。RSCの方々もちょっとそういう感じがあるんですよね。もちろん、基本的にはシェイクスピアのものばかりをやっているんですけど、トラディショナルな方法論で、ずっと同じものをやっていても、イギリスでは誰も観てくれないんですよ。

――そういうものなんですね。

平:「どうして同じものをやるの?」って誰も観たがらないというか、まったく同じものは、評価の対象にならないんですよね。だから逆に、RSCにいたからこそ――これはあくまでも僕の想像ですけど、表現としては、結構尖ったほうにいくのかなと。RSCの人たちだけではなく、イギリス全体の傾向としてあるような気がするんですよね。

――先ほど、撮影初日にウィルに励まされたという話がありましたが、『Giri / Haji』の撮影中、ウィルとのあいだで、何か他に印象的なエピソードはありましたか?

平:ウィルはいつも完璧なんでね(笑)。『ランドスケーパーズ』には出演していなかったですけど、彼は本当に芝居が上手いんですよ。『Giri / Haji』の場合、僕の台詞は、英語が3分の1、日本語が3分の2ぐらいの割合だったんですけど、脚本家のほうから、言葉をあまり変えずにやってほしいと言われていて。僕もそうだし、共演のケリー・マクドナルドにも、そう言っていたんですけど、ウィルだけは結構アドリブを入れてもオッケーで……。

ウィル・シャープ(写真提供=REX/アフロ)

――どうしてなのでしょう?

平:それは多分、脚本家同士のリスペクトというか、脚本家同士でわかり合っている部分があるのかなと思って、僕は見ていました。ウィルの役が、たまに日本語を話してましたけど、それを京都弁にしようっていうのもウィルのアイデアだったんですよね。

――そうだったんですね。ちなみに、ウィル・シャープはあの役で、英国アカデミー賞で助演男優賞に選ばれていて、『Giri / Haji』は、イギリス本国ではかなり高い評価を受けた作品だったんですよね。

平:そうですね、ありがたいことに。イギリスではBBCで放送して、そのあとNetflixにも入ったので、英語圏では結構観てもらえたみたいで、特にイギリスでの評価は、結構高かったんですよね。そう、僕も英国アカデミー賞の主演男優賞候補に選ばれたんですけど(笑)。

――そうでした。失礼しました(笑)。

平:(笑)。やっぱり『Giri / Haji』みたいなドラマ――この『ランドスケーパーズ』も、そうなのかもしれないけど、イギリスのドラマって、結構渋いものが多くて、観るほうも、ちゃんと参加して観ないと、なかなか分かりにくいところがあるものが多いというか。アメリカのドラマのように、提示されるものだけを観ていれば、誰でも理解できるという感じのものではないんですよね。そういう意味では、ある種「大人のドラマ」が多いというか、観ている側の知的好奇心みたいなものを必要とする作品が多いような気がします。この『ランドスケープ』も間違いなくそういうドラマだと思いますけど。

――『Giri / Haji』もそうでしたが、ときどき、かなり大胆な演出が施されているものが、イギリスの作品には多い印象があります。

平:そうですよね。さっきのシェイクスピアの話じゃないですけど、イギリスの人たちは、表現方法に関して、どこか尖りたいところがあるような気がするんです。もちろん、そこには賛否両論あるんでしょうけど、とにかく「自分たちはこうやるんだ」ということを、ちゃんと提示する潔さがある。ただ、その根っ子の部分には、シェイクスピアをはじめとする演劇の脈々たる文化というか、歴史がちゃんと見え隠れしているっていう。そこがイギリスっぽいところなのかなと思うんです。

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