平岳大が明かす、海外と日本の制作環境の違い 盟友ウィル・シャープ監督の最新作を観て

平岳大がウィル・シャープの最新作を語る

日本/海外の現場の違い

――平さんは、そんな『Giri / Haji』に主演されたことをきっかけに、現在は海外に拠点を移して仕事をされているとのことですが、ハワイに移住したのは、2020年でしたか?

平:そうですね。『Giri / Haji』の撮影が2018年で、その翌年は『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021年)という映画をやっていて、あのときもバンクーバーに長いこといたんですけど、住んでいたのはまだ日本でした。ちょうどコロナ禍が始まる直前に、ハワイに移住したんです。だから、いろいろ大変だったんですけど(笑)。それ以降は、基本的には海外での仕事を中心にしています。

――それから2年ぐらいが経ちましたが、率直にいかがですか?

平:一応、何とかやっている感じです(笑)。僕の場合は、『Giri / Haji』もあったし、すごくラッキーな形だったと思うんですよね。これがずっと続くとは限らないとは思うので、すごい危機感を持って日々やっています(笑)。たまに全く知らないところからオファーがあったりもするけど、基本的には、もうずーっとオーディションの日々です。

――最近は、ビデオオーディションが中心だとか?

平:そうですね。キャスティングディレクターのオフィスに行ってやることは、もうほとんどないんじゃないかな? 向こうも多分、そのほうが楽だと思うし。このコロナ禍で、それが一気に進んだところもあるみたいです。だからもうホント、オーディションに受かったら仕事があるけど、受からなかったら永遠にないっていう(笑)。恐ろしい世界ですよ。

――そうやって海外で仕事をするようになって、改めて気づいたことってありますか。それこそ、日本の現場との違いとか……。

平:最近、日本の映画業界に関するニュースが、結構いろいろあったみたいですけど。

――そうですね。少しご意見をお聞きしたいのですが。

平:一緒に仕事をしている日本人チームでも、たまに話すんですけど、やっぱり日本の映画作りって、情熱がすごい大事で、その人の情熱の部分が問われるというか。「お前は、それでいいのか!」とか、そういう精神的な話になりがちだと思うんです。海外ではそういうのがまったくないんですよね。映画の現場であろうが何だろうが、金融、メーカー、不動産屋とか、他の仕事とまったく同じような感覚で仕事をしていて。不動産屋で、「お前の営業魂は、そんなものか!」って殴ったりする人は、いないじゃないですか。でも、日本の芸能界っているんですよ。なぜかいまだに。だけど、海外だと、そんな変な人はいないし、怒る監督なんていないんですよね。少なくとも、キャストに対して怒る人なんて、僕はひとりも見たことがない。

――それは、日本人が怒りっぽいとかいう話ではなく、海外の人たちは、そのベースにあるルールや常識が、すごくはっきりしているんでしょうね。

平:ここでは、そういうことをしてはならないっていうのが、スタッフ全員のあいだで、ちゃんと共有されているんですよね。特に、大きい会社の作品になると、何かあると、すぐに人事部の人間が飛んできますから(笑)。どこかの部署とどこかの部署が、あんまりうまくいってないみたいなことがあると、普通の会社のように人事部の人がやってきて、その仲裁に入って問題解決をしてくれるんです。だから、最近日本で話題になったような現場でのパワーハラスメント的な話は、絶対ありえないですよね。

――日本の現場は、何をどこから変えていけばいいと思いますか?

平:うーん……何か表面的に、過去のことをつるしあげるだけでは、多分変わらないような気がするんですよね。僕がひとつ思うのは、やっぱりプロデューサーの役割ですよね。要するにみんな、「予算がないから」っていうのを言い訳にする場合が多いと思うんです。予算を増やすためには、マーケットを広げるしかないわけで。僕が言うのもおかしな話ですけど、そしたらやっぱり、海外を視野に入れるしかないと思うんですよね。ここ最近、韓国勢の活躍が目覚ましいですけど、韓国だって自国のマーケットが小さくて外に出ていかざるを得なかったから、それを国を挙げてやって、ここまで存在感を持つようになっていて。

――ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(2019年)が、アカデミー賞で作品賞を受賞するまでになったわけで。

平:『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を獲ったときに、印象に残っているのがプロデューサーの女性が、「韓国のお客さんに感謝する」って言った言葉です。韓国の観客は、それまで自分たちが作ってきた映画について、良いものも悪いものも、ちゃんと批評をしてくれたと。そういう経験を重ねることによって、自分たちがどういう作品を作ればいいのかわかってきたと話されていて、それって日本では絶対ないことだなって。

――そうですね。

平:脱線しますが、この『ランドスケーパーズ』というドラマは、非常に素晴らしいドラマだと僕は思うけど、このドラマを「観やすい」とか「視聴数が多い」、あるいは「スターが出ている」とか、そういう基準ではなくて、ちゃんとひとつの作品として評価するような意識も大事だと思うんです。それによって、海外の作品の「ナラティブ」――物語全体とか表現方法、あとその語り口とかを言うんですけど、そういうものがわかると思うんです。自分たちの作品を、そういう世界水準まで持っていくことができたら、今は配信プラットフォームなどを利用して、海外の人たちにも観てもらうこともできるわけで。そうやってマーケットが広がれば、自ずと予算も増えて、もう少しいろんなものに余裕ができて、いろいろ意識も変わってくると思うんです。つまり何が言いたいかというと、そこまで見越したプロデューサーの存在というのが、やっぱりこれから、すごく大事になってくるんじゃないかなと。

――なるほど。ちなみに、先ほど話にも出てきた「シスター・ピクチャーズ」のプロデューサーは、どんな感じの方なんですか?

平:シスターのトップでもある、ジェーン・フェザーストーンっていうプロデューサーがいて、彼女は、『Giri / Haji』のプロデューサーであり、『ランドスケーパーズ』のプロデューサーにも入っている人なんですけど、やっぱり彼女の「器の大きさ」っていうのかな。彼女が現場にくると、みんなピリッとはするんですけど、それを感じさせないように、彼女はスタッフを褒めるし、役者も褒めるんですね。変な言い方だけど、すごい包まれている感じがするんです。だから、プロデューサーというのは、決して怖い存在ではなくて。やっぱり俳優って、恐れとか不安とかプレッシャー、緊張とか、いろいろ現場ではあって。

――そうでしょうね。

平:それを解放して、いちばん良い芝居ができる環境を作るのが、プロデューサーの仕事なんですよね。それを、彼女本人はもちろん、現場のスタッフもみんな理解しているんです。それは、プロデューサーだけではなく、監督も同じです。スタッフ全員が働きやすい環境を作るのが、自分の仕事であるという。だから、怒鳴るみたいなのとは真逆ですよね。撮影初日に、ウィルが僕のことを励ましてくれたっていう話をしましたけど、彼は役者であると同時に監督という面もあるわけで。だから、その作品を良くするために、ちょっとヘコんでいるやつがいたら、ちゃんとその人を助けようとするっていう。そういう全体的な雰囲気みたいなものが、やっぱり海外の現場には、すごくあるんですよね。

『ランドスケーパーズ 秘密の庭』予告編

■放送・配信情報
『ランドスケーパーズ 秘密の庭』(全4話)
・字幕版、吹替版
スターチャンネルEX(https://ex.star-ch.jp/)にて全話配信中
・字幕版
BS10 スターチャンネルにて
第1話:5月23日(月)13時〜放送
第2話:5月23日(月)23時〜放送
ほか毎週月曜23時〜放送
脚本・製作総指揮:エド・シンクレア
監督・脚本・製作総指揮:ウィル・シャープ
出演:オリヴィア・コールマン、デヴィッド・シューリス、ケイト・オフリン、ディポ・オラ、サミュエル・アンダーソン、ダニエル・リグビーほか
(c)Sister Pictures Limited 2021. All Rights Reserved.
公式サイト:https://ex.star-ch.jp/special_drama/qs24D

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる