『魔女の宅急便』は大人になった今こそ見返したい名作 キキが経験する“面倒くさい”の意義

『魔女の宅急便』大事なことは“面倒くさい”

 『プロフェッショナル 仕事の流儀』(2013年放送/NHK総合)の密着取材で四六時中、面倒くさい、面倒くさいと言いながら仕事をする宮崎駿の姿が印象に残っている。だれもが知る数々の名作を生み出し、日本アニメ映画界のトップを走り続けてきた宮崎監督。冷静に考えれば当たり前に思えるが、類稀な才能を持った彼でさえも、面倒くさいという気持ちと戦いながら仕事をしていることに驚かされた。

「世の中の大事なことって、たいてい面倒くさいんだよ」

 4月29日に日本テレビ系『金曜ロードショー』で放送される『魔女の宅急便』は、そんな“面倒くさい”を巡る物語だ(以下、ネタバレを含む)。

 角野栄子の同名児童文学を原作としたスタジオジブリ作品『魔女の宅急便』は1989年に公開され、興行収入43億円のヒットを記録した。物語は13歳の少女・キキが一人前の魔女になるため、両親の元を離れ、見知らぬ土地で奮闘する姿を描いている。魔法が使えるといっても、キキができるのは“ホウキで空を飛ぶこと”と“黒猫のジジと会話すること”くらい。

 決して派手な演出はないが、松任谷由実の「ルージュの伝言」をバックに、生まれ故郷を旅立ったキキが海に囲まれた美しい港町・コリコに到着。空飛ぶ宅急便屋さんを始め、挫折を経験しながらも、さまざまな人たちとの出会いを通じて成長していくある種の“冒険記”に子どもの頃、だれもがワクワクさせられた。だけど、本当の意味でこの物語が深みを帯びてくるのは観る人が大人になってからだろう。

 記憶に残るのが、老婦人に依頼され、大雨の中でずぶ濡れになりながら、その孫娘に“ニシンのパイ”を届けたキキが「私このパイ嫌いなのよね」と冷たくあしらわれる場面。宮崎監督が著書『出発点 1979〜1996』(徳間書店刊)において、どこかで感謝されて当然と思っていたキキが自分の甘さを実感させられた瞬間だと語っているこの場面は、働いた経験のある人ならだれもが既視感を覚えるものではないだろうか。

 新しいことを始めた直後は驚きやワクワクに満ちているが、頑張ってもさして褒められず、だれかに叱られたり、自分の実力不足に凹んだり、次第に「こんなはずじゃなかった」と思うことが増えてくる。結果、何もかも無駄に思えて頑張ることを放棄してしまうことも。そういう褒美がなければ、前に進めない生き物の弱さを体現するように、物語中盤、キキは突然魔法が使えなくなってしまう。

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