Netflixで観ることができるアカデミー賞ノミネート映画 有力視されている3作品を紹介

Netflixで観られるアカデミー賞候補作

 アカデミー賞に、配信で発表された作品が複数含まれるようになって何年か経つ。本年度もまた複数の配信作品がノミネートされている。今回は、第94回アカデミー賞にノミネートされた作品のうち、Netflixで観ることができる映画をいくつか紹介してみたい。Netflix作品で、アカデミー賞候補となっているのは、合計で10作品。Netflixの勢いが感じられるノミネート数である。今回は、受賞を有力視されている3作品を取り上げつつ紹介していこう。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(c)2021 Cross City Films Limited/Courtesy of Netflix

 『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021年)は、ベネディクト・カンバーバッチ主演の西部劇。1920年代のモンタナ州を舞台に、牧場経営をする兄弟が描かれる。兄のフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)は明晰で行動力があるが、他人を威圧して従わせる暴力的な面を持ち合わせている。一方、弟のジョージ(ジェシー・プレモンス)は柔和で繊細な分、押しが弱く、牧場経営においては兄に従っている。ジョージが未亡人のローズ(キルスティン・ダンスト)と結婚したことで、兄弟の関係性が変化していく、という展開が用意されている。美しい自然風景をとらえた撮影、ミステリアスな展開や不穏な音楽が観客を惹きつける。作品賞の有力候補となっており、今回のアカデミー賞でもっとも注目されるフィルムのひとつだ。

 西部劇の体裁で作られた映画はあるが、舞台となる時代はすでに20世紀。1920年代といえばアメリカは好景気の波に乗る中で移民も増え、女性の社会進出も著しかった。社会全体が変化していく中で、フィルという人物が抱いている「男らしさ」も耐用年数が尽きているように見えるのだ。女性監督ジェーン・カンピオンによって描かれるのは、男らしさの呪縛にとらわれた人物の生きづらさ、不自由さである。実に現代的なジェンダー観を、西部劇のフォーマットで展開させるというアイデアがすばらしい。男らしくあらねば、という観念にとらわれたフィルだが、彼もまたどこか繊細さが残っており、時おり手にしたバンジョーを器用に弾きこなすといった場面には、彼の二面性が見て取れる。一見「男の中の男」といったたくましい人物に見えるフィルも、男性性とどう折り合いをつけていいか悩んでいたように思えてならない。こうしたテーマがアカデミー賞でどのように評価されるのかに注目したい。

『ドント・ルック・アップ』

『ドント・ルック・アップ』 (c)2021 NIKO TAVERNISE/NETFLIX

 『ドント・ルック・アップ』(2021年)は、『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2018年)や『バイス』(2018年)などの作品で知られるアダム・マッケイが監督を務めている。社会状況や政治を皮肉った作風を得意とする、アダム・マッケイらしいポリティカル・コメディだ。天文学者のミンディ教授(レオナルド・ディカプリオ)と、大学院生のケイト(ジェニファー・ローレンス)のふたりは、半年後に巨大な彗星が地球へ衝突することを発見する。そうなれば世界は崩壊し、人類も死滅してしまう。彼らはあわてて大統領(メリル・ストリープ)へ進言に行くが……というあらすじだ。ユーモラスな展開のなかに社会風刺を盛り込む脚本のおもしろさは、アダム・マッケイならではと言える。

 彗星衝突すれば世界が終わってしまうという非常事態であるにもかかわらず、大統領はといえば、中間選挙の結果が悪くなってはいけないとそちらばかり気にしてしまう始末。このもどかしさは、地球温暖化やコロナなど、我々の目の前に立ちはだかる問題の置き換えのようにも見える。多くの生命が失われる危機的状況にあっても、企業の利潤が優先されてしまったり、政治家の延命が優先されるといった歯がゆさは、日本でこの作品を見る観客にとっても見覚えのある光景ではないか。コロナ禍の対策として、お肉券やお魚券を配るといった珍案が真剣に議論されてしまう我が国も、『ドント・ルック・アップ』を他人事として見ることはできないだろう。彗星が肉眼で見えるような距離にまで近づいても、まだ衝突の事実を受け入れず、「空を見上げるな」(Don't look up)とかけ声をかけ続ける人びとの姿にギョッとしてしまうが、これもまた現代社会の皮肉な描き方か。コメディとして最後まで笑って楽しめる作品で、個人的には今回紹介する中でもっとも好きな1本である。

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