スティーヴン・スピルバーグやドゥニ・ヴィルヌーヴ、アカデミー賞授賞式に異議を唱える

スピルバーグらがアカデミー賞新形式を批判

 スティーヴン・スピルバーグ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジェーン・カンピオンら、名だたる映画監督たちが、第94回アカデミー賞授賞式の開催方法について声を挙げている。

 今年度の授賞式では、全23部門のうち8部門(短編ドキュメンタリー賞、編集賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、作曲賞、美術賞、短編アニメ賞、短編(実写)映画賞、音響賞)が、事前収録によって表彰されることが発表され、監督をはじめとする映画界関係者の間では、物議を醸す事態となっており、『ナイトメア・アリー』のギレルモ・デル・トロ監督は、「(受賞式の変更について)声を大にして言うべき」と主張していた(参考:ギレルモ・デル・トロ、第94回アカデミー賞授賞式の省略形式を批判 アカデミー側は弁明)。

 本件に関して声を挙げているのは、デル・トロ監督だけではないようで、スピルバーグ、ヴィルヌーヴ、カンピオン監督らも異議を唱えている。今年度アカデミー賞で、作品賞、監督賞を含む7部門にノミネートされている『ウエスト・サイド・ストーリー』を手掛けたスピールバーグ監督は、Deadlineのインタビューにて、授賞式開催方法について意見を述べた。

 スピルバーグ監督は、「アカデミー賞実行委員会の決定には反対です。私は映画というものが世界で最も協力的なメディアであると強く信じています。全員が一丸となって映画を作り、家族となるのです。どの技術(者)も必要不可欠な存在なのです」「アカデミー賞には、上も下もありません。私たちは、最高の物語を伝えるために、それぞれがベストを尽くし、全員が同じラインに立っているのです。すなわち、私たち全員が5時からの生放送(授賞式)の特別席に座るべきであるということなのです」と主張し、さらに「生放送で一緒に、魔法がかかる(輝かしい)瞬間を見られないのは悲しいことです。誰もが脚光を浴びる瞬間があるはずです」と、同時刻に受賞の瞬間や喜びが共有できないことに対し異議を唱えた。

 アカデミー賞授賞式は、これまで生放送と事前収録の部門を分けたことはなかったが、2019年にも、一部の部門の賞を放送外で紹介する新形式について発表していた。しかし、映画関係者をはじめとする多方面からの反発を受け、新形式案は撤回に至った。

 そのような背景も踏まえ、スピルバーグ監督は、「(決定が覆ることを)望んでいます。しかし、私は仲間たちを尊敬していますし、(映画芸術科学アカデミー会長)デヴィッド・ルービン氏も大いに尊敬しています。3年前にも同じようなことが起こりそうになりましたが、直前に変更されました。決定が覆ることを望みますが、期待しているわけではなく、決して楽観視しているわけでもありません」と述べた。ルービン会長は、視聴率低下などの問題も踏まえ、「番組と組織の将来を見据え、前進しなければならない」と述べ、受賞者と観客(視聴者)の両者にとって最善な授賞式を追求した結果、「私たちは新形式が、包括的で尊敬に値する、祝典方法であると信じています」と述べている。

 また、スピルバーグ監督と同様に、自身が手掛けた作品が同賞で多数ノミネートされている、『DUNE/デューン 砂の惑星』のヴィルヌーヴ監督と、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のカンピオン監督も、受賞式の変更についてそれぞれ声を挙げている。

 今年度アカデミー賞で、作品賞、撮影賞を含む10部門にノミネートされている『DUNE/デューン 砂の惑星』を手掛けたヴィルヌーヴ監督は、Deadlineのインタビューにて、「正直なところ、アカデミーは、“お風呂の水と一緒に赤ん坊を捨てている”(不要なものを排除しようとして、大切なものまで排除しようとしている)ようで、それは間違っていると思います。彼らが大きなプレッシャーにさらされていることは理解していますが、正しい判断ではないと思います。映画製作はチームワークが肝心で、フットボールチームのようなものです。それぞれの技術や役割が必要とされ、各々がスキルを発揮しなければ、映画は崩壊してしまいます。チームプレーなのです。メディアでは、監督や俳優に焦点があたることが多いですが、影で支え、貢献しているメンバーも、評価され、認められる必要があると思うのです」と主張。

 さらに、「アカデミー賞が悪いとは思っていません。みんな、長丁場の番組であっても期待しているのだと思います。私は、アカデミー賞が大好きです。美しい瞬間もあれば、時には退屈な瞬間もあるかもしれません……しかし、その瞬間はその回だけのものであり、ショーの一部なのです」と述べた。

 また、今年度アカデミー賞で、作品賞、監督賞を含む11部門12ノミネートで、最多ノミネートを獲得している『パワー・オブ・ザ・ドッグ』を手掛けたカンピオン監督は、全米美術監督組合賞(ADG’s Cinematic Imagery Award)を受賞した際のコメントで、「先日、アカデミー賞の受賞方式について変更が発表されたため、この場を借りて、プロダクションデザインが、いかに重要なものであるかを述べたいと思います。(映画製作において)デザインは非常に重要であるため、私なら間違いなく(アカデミー賞受賞式)本編に美術賞を含めるでしょう。デザインは最も重要な要素のひとつです」と述べた。

 今回の変更について、8部門にかかわるノミネートを獲得し、技術者の努力や貢献をそばでみてきた監督たちであるからこそ特に、声を大にして主張したいのであろう。今後、アカデミー側のさらなる動きがあるのかは不明だが、3月27日(アメリカ現地時間)に開催されるアカデミー賞授賞式が、今後の授賞式にどのように影響していくのか、注目が集まる。

参照

Steven Spielberg Disagrees With Decision To Pre-Record Eight Oscar Categories, Not Optimistic About A Reversal
Denis Villeneuve Calls Oscar Telecast Changes “A Mistake”; Jane Campion Also Expresses Dismay
Dune & Power of The Dog Directors Upset 2022 Oscars Will Cut Categories

■公開情報
『ウエスト・サイド・ストーリー』
全国公開中
製作:監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
作曲:レナード・バーンスタイン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
振付:ジャスティン・ペック
指揮:グスターボ・ドゥダメル
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、マイク・ファイスト、デヴィッド・アルヴァレス、リタ・モレノ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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