第94回アカデミー賞受賞結果を予想 男性主人公の“弱さ”を描く作品が目立つラインナップに

第94回アカデミー賞受賞結果を占う

 言わずもがな第94回アカデミー賞の最大のトピックは、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』の日本映画史に残る快挙であろう。日本映画初の作品賞&脚色賞ノミネートに加え、日本人監督史上3人目の監督賞ノミネート。そしてほぼ受賞確実と言われている国際長編映画賞にもノミネートと、先日のゴールデングローブ賞直後の記事(参考:GG賞受賞『ドライブ・マイ・カー』オスカー受賞なるか 過去成績からその可能性を占う)で挙げた「どこまでやれるのか?」という問いに最高のアンサーをくれたことに、ただただ歓喜せずにはいられない。

 国際長編映画賞以外の3部門での受賞に密かに期待はしつつも、冷静に考えるとさすがにそれは相手が悪すぎるとも思える。作品賞も監督賞も脚色賞も、今年最もオスカーに近い存在である『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と直接対決をしなくてはいけないのだから。なによりアカデミー賞はオリンピックと同様、参加できるだけでも素晴らしい、誇るべき栄誉である。第三者が過剰にメダルを要求するようなことはあまりするべきではなく、ここから先はひとつのショーとして、日本映画が世界から注目を浴びる様子を楽しむのがいいだろう。

 さて、今回のコラムでは主要部門のノミネートを振り返りながら、それぞれの現時点での受賞予測を立てていきたいと思う。取り上げるのは注目度の高い作品賞、監督賞、演技4部門と、長編アニメーション賞と国際長編映画賞の8部門にしぼる。

作品賞

『ベルファスト』(c)2021 Focus Features, LLC.

『ベルファスト』
『コーダ あいのうた』
『ドント・ルック・アップ』
『ドライブ・マイ・カー』
『DUNE/デューン 砂の惑星』
『ドリームプラン』
『リコリス・ピザ』
『ナイトメア・アリー』
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
『ウエスト・サイド・ストーリー』

監督賞

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(c)2021 Cross City Films Limited/Courtesy of Netflix

ポール・トーマス・アンダーソン『リコリス・ピザ』
ケネス・ブラナー『ベルファスト』
ジェーン・カンピオン『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
濱口竜介『ドライブ・マイ・カー』
スティーヴン・スピルバーグ『ウエスト・サイド・ストーリー』

 作品賞に触れる前に、この顔ぶれに日本人の名前が挙がっているだけでもワクワクしてしまう監督賞に触れようと思う。ここは一言で片付く。今年はカンピオンの年である。『ピアノ・レッスン』以来、女性監督として史上初の2度目の監督賞候補。昨年もクロエ・ジャオが制し、賞史における女性監督の道を切り拓いたリナ・ウェルトミューラーが昨年末にこの世を去り、作品も今年の最多ノミネートを獲得。早い段階からオスカー確実と言われつづけ、前哨戦でもその強さを発揮してきたカンピオンが受賞する以外の光景は想像できない。

 それゆえ作品賞も『パワー・オブ・ザ・ドッグ』が最も受賞可能性の高い位置にいる。アカデミー賞予想の鉄則である「監督賞」「脚本部門」「演技部門」「編集賞」への候補入りを果たした作品賞候補作はこの1本しかないと、データ的な裏付けも十分である。それはつまり、Netflix映画がついにアカデミー賞の頂点に立つということでもある。『ROMA/ローマ』で成し得なかったことが3年越しに、ようやくフォーマット的な意味で時代のアップデートが図られることになるのだろう。しかも数年前にNetflix映画を批判した(昨年関係が改善したと報じられていたが)スピルバーグの目の前でというのも、時代が動くことを象徴する出来事となりうるわけだ。

 作品賞の候補10作を見ると、4作品もリメイク映画が入っている点が目に付く。近年でも『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』や『アリー/ スター誕生』がノミネートされたことがあるとはいえ、受賞までこぎつけたリメイク映画は『ディパーテッド』と『ベン・ハー』、広義のリメイクと捉えても『恋の手ほどき』と少なく、同じ年にこれだけ入るというのも珍しい。それは久しく言われているハリウッドのアイデア不足というネガティブな捉え方もできる一方で、リメイク映画というネガティブなイメージを覆す作品づくりがようやく可能になったという考え方もできるのではないだろうか。

 また昨年の『ノマドランド』しかり、近年の作品賞候補作のなかでは女性主人公の“強さ”を表すような作品が目立っていたが、今年はそもそも『コーダ あいのうた』しか女性主人公の作品がない。それに対し、妻の死という喪失に向き合う主人公を描く『ドライブ・マイ・カー』や、詩的な表現でマチズモの綻びを描き切る『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と、男性主人公の“弱さ”を描く作品が目立つ印象だ。それは娘たちに人生を委ねた“持たざる者”の父を描く『ドリームプラン』であったり、争うことでアイデンティティを保とうとする若者を描く『ウエスト・サイド・ストーリー』であったり、今年を象徴するひとつの大きなテーマなのかもしれない。

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