滅びの美学に貫く新選組 敗者の物語を際立たせた『薄桜鬼』のオリジナリティ
幕末、京都の治安を守る活動に励んだ新選組。時代の荒波に揉まれながらやがて時代に必要とされなくなっていく新選組の顛末を描いた多くの作品はどれも滅びの美学に貫かれている。これだけ長く多くの人に愛される理由は、負けるとわかっていても信じたもののために戦い抜いて死んでいくその姿が胸を打つからにほかならない。『WOWOWオリジナルドラマ 薄桜鬼』(以下、『薄桜鬼』)もまた、その芯の部分はそのままだ。そこに2点のオリジナリティが付与されている。
『薄桜鬼』のオリジナリティは「ヒロイン」と「変異」である。まず「ヒロイン」。『薄桜鬼』の原作は乙女ゲームだ。2008年に発表され大ヒット、シリーズ化され、アニメ化や舞台化されてきて、今回が待望の実写ドラマ化になる。乙女ゲームとは、主人公の女性(乙女)がすてきな男性陣に囲まれ、次々キュンとなるイベント満載のエンタメだ。『薄桜鬼』ではある秘密を抱えたヒロイン・雪村千鶴(若柳琴子)が行方不明の父・綱道を探しに京都にやって来て新選組に身を寄せるところからはじまる。ヒロイン・千鶴の宿命と新選組の運命が交錯し物語は大きくうねっていく。
千鶴は、「鬼の副長」の異名をもつ厳しい土方歳三(崎山つばさ)、組最年少の気のいい藤堂平助(福山康平)や隊の論客で知性的な山南敬助(中林大樹)などと交流しながら父を探す。そうするうちに自身の秘密と山南の研究とに関連があることを知る。また、新選組と対立する謎の「鬼の一族」の頭領・風間千景(伊万里有)も千鶴に接近してくる。
乙女ゲーム原作にしてはヒロインファーストの要素は控えめで新選組の青春群像の要素のほうを強く感じた。少なくともヒロインが新選組隊士たちにモテモテで悩みまくるという感じはではない。ツンデレの土方、やさしい藤堂、大人の山南、敵のはずなのに何か気になる風間……とかそういうキャラにもなり得るところそうはなっていない。千鶴は静かに隊士たちの生きる道を見守りながら自分の宿命と戦っている。逆に序盤はヒロインの割に控えめ過ぎないかと思ってしまったくらいで、ごくたまに少女漫画的なシチュエーションがはさまれていてそれが逆に浮いているようにも見えたほどだ。元々原作のゲームがあくまで新選組をメインに描こうとしたため乙女ゲームファンに受け入れられるか作り手は心配していたそうだ。そういう意味では乙女ゲーム原作だからと二の足を踏んでいた人にも見やすいものといえるだろう。