滅びの美学に貫く新選組　敗者の物語を際立たせた『薄桜鬼』のオリジナリティ

　『薄桜鬼』第2の特徴は「変異」である。「変若水（おちみず）」という薬を飲んだ者は人間離れした力を持ち、ケガの回復力も圧倒的に早くなる。ただそれは「羅刹」という人間の血を求めるモンスター化することであり、陽の光を浴びることができなくなってしまう。ゴシックロマンに満ちた吸血鬼ものと変わり果てた人間が人間を襲うゾンビものを足したような世界観だ。新選組に奇想天外な味付けが加味されてはいるもののキャラクターだけ借りてきただけということはなくしっかり史実を踏まえている。従来のイメージと若干離れている気がするキャラもいるがそれはご愛嬌の範囲だと思う。

　薬の欠点を取り除く研究を続ける山南。日々、激しい戦いが繰り広げられる新選組だから斬られても回復し驚異の力で敵を倒せることは願ってもないことだ。山南が研究に没頭するのは、自身も腕を負傷して戦えなくなっているため、もう一度仲間たちと戦えるようになりたいと考えているからだ。やがて、沖田総司（金井成大）も病にかかり、戦いから外されて苦悩する。

　「変若水」による無敵の身体への希求によって新選組の敗者の物語が際立ってくる。物語のなかで隊士たちは集団で生きていくことにかけがえのない幸福を感じている。局長・近藤勇（田中幸太朗）を中心に土方、斎藤一（矢野聖人）、沖田、山崎烝（永田崇人）、藤堂、原田左之助（時任勇気）、永倉新八（才川コージ）、山南らが志を共にして行動してきた。ところが、方向性の違いによる別れや裏切りが起こったり、山南や沖田のように戦えなくなったら隊では不要な人間になると自分を責める者も現れる。そうすると最も濃密に団結していた過ぎ去りし日々が懐かしい。そういう気持ちの揺らぎに「変若水」の魔の手が忍び寄る。この薬さえ飲めば永遠に（死ぬまで）共に戦い続けることができる。そんな夢に囚われていく隊士たち。鬼と人間との中間の羅刹と、武士になりたかった農民や町人たちの集まりだった新選組の姿が重なって切ない。彼らが最後に選ぶものはーー。

　東映京都撮影所で撮影されているため昔ながらの時代劇の空気もある。若い俳優たちの殺陣シーンは武士ではない者たちらしい荒っぽい喧嘩殺法的な動きに味わいがある。

■放送情報
『WOWOWオリジナルドラマ 薄桜鬼』（全10話）
WOWOWプライムにて、3月10日（木）15:30より第1話～第9話一挙放送

WOWOWプライムにて放送
第8話：3月4日（金）15:00〜
第9話：3月4日（金）23:30〜、3月11日（金）15:00〜
第10話：3月11日（金）23:30〜、3月18日（金）15:00〜

WOWOWオンデマンドにて、第1話～第8話配信中
※最新話放送と同時配信、以降、アーカイブ配信あり
※無料トライアル実施中

出演：崎山つばさ、若柳琴子、矢野聖人、金井成大、永田崇人、福山康平、時任勇気、才川コージ、伊万里有、中林大樹、田中幸太朗
原作：オトメイト（アイディアファクトリー／デザインファクトリー）
監督：六車雅宣、西片友樹
脚本：保木本真也
音楽：諸橋邦行
主題歌：吉岡亜衣加「誓ノ花片」
プロデューサー：佐藤圭介、山本和夫
協力プロデューサー：森井敦
制作プロダクション：ドラマデザイン社
制作協力：東映京都撮影所
製作著作：WOWOW
(c)IDEA FACTORYDESIGN FACTORY (c)2022 WOWOW
公式サイト：https://www.wowow.co.jp/drama/original/hakuoki/
WOWOWオンデマンド配信ページ：https://wod.wowow.co.jp/series/47780