手に汗握る展開の『しんがり』など「連続ドラマW」 現実と地続きの物語ゆえのリアリティ
映画顔負けのクオリティの高さと幅広いラインナップで、エンタメファンからの厚い支持を得ているWOWOWの「連続ドラマW」。とりわけ、その本領発揮とも言えるのが、社会派ドラマだろう。癌の特効薬をめぐる医療問題に迫った第1作『パンドラ』以来、数多くの作品が「連続ドラマW」から世に送り出されてきた。こういった社会派ドラマの見どころと言えば、現実と地続きの物語ゆえのリアリティと渦中にある人々の人間模様だ。ニュースが伝える客観的な事実とは違い、当事者や関わりのある人物の目線で語られる成り行きは、時にミステリアスでスリリング。さまざまな思惑が絡み合い、暴走し、複雑化していく様は、たとえ顛末を知っていてさえ手に汗握るものがある。まさに「事実は小説よりも奇なり」。事件や社会問題をベースにしているからこその視点の新鮮さと脚色が生きるジャンルと言えよう。
たとえば、2015年に放映された『しんがり~山一證券 最後の聖戦~』は、かつて四大証券と呼ばれた証券会社の一角を担った山一證券の自主廃業を題材にした作品。元読売新聞の記者として実際にこの事件を取材していた清武英利の『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社+α文庫)を、登場人物や設定を一部変更した上でドラマ化した。廃業の一因となった約2600億円もの簿外債務はなぜ生まれたのか、経営陣はどのように隠し続けたのか、その真相解明に至る道のりを、実際に調査報告書の作成にあたった業務監理本部のメンバーの視点で描いていく。“調査”という一見地味な題材ながら、リーダーで部下からの人望も厚い主人公の梶井を江口洋介、彼と共に調査に奔走する部下を萩原聖人や林遣都が演じ、ドラマに深みをプラス。事件が明らかになっていく過程の中で、“場末”と呼ばれた部署のメンバーたちが次第に心を通わせ、一致団結して会社の最後を見届けようとする展開に引き込まれる。巨大企業の不正というスキャンダラスな出来事の裏側を暴きながら、スポ根ドラマのような王道のチームものに徹した描き方が作品をエンターテイメントに昇華している。
また、同じく清武英利原作では、『石つぶて ~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~』も、社会派ドラマでありながらバディものの面白さを持った作品だ。本作は2001年に発覚した「外務省機密費搾取事件」を基に描かれている。当時、外務省の要人外国訪問支援室長だった人物が長年にわたり省内の機密費を私的に利用していた事件で、外務大臣をはじめ多くの官僚が処分の対象となり、世間の話題をさらった。物語は、経済犯罪を取り締まる捜査二課の刑事の視点で進行。佐藤浩市が演じる無骨で一匹狼な木崎と、江口洋介演じる上昇志向が強く熱血漢な斎見という正反対のふたりが、ぶつかり合いながら共同戦線を張る姿がまずひとつの胸熱ポイントだ。加えて国家中枢の闇と警察内部の権力争いなども重層的に描かれていくことで、ふたりの孤立無援の戦いがより強調されていく。巨悪と戦う人々の姿を見つめる清武英利のノンフィクション原作のスピリットは、2021年に実写化された『トッカイ ~不良債権特別回収部~』へも引き継がれているのでぜひチェックしてほしい。