『悪の花』から『賢い医師生活』まで ライター陣が選ぶ、今観るべき2021年の韓国ドラマ

今観るべき2021年の韓国ドラマ

 『梨泰院クラス』、『愛の不時着』に続き、『海街チャチャチャ』、『わかっていても』といった作品群もNetflixのトップ10ランキングの上位にランクインするなど、韓国ドラマがもはや一過性のブームではないことを証明したと言える2021年。『イカゲーム』が社会現象にまでなり、『D.P. -脱走兵追跡官-』がNYタイムズが選ぶ最高のドラマ10選に選出されるなど今年も数多くの話題作が生まれたが、果たしてどれだけの作品をチェックできているだろうか。本企画では、リアルサウンド映画部のライター陣に2021年に日本で放送・配信された、今観るべき韓国ドラマを5本ずつ選出してもらった。見逃した作品があれば、ぜひ参考にしていただきたい。(編集部)

韓国ドラマ好きのだらだら子編

・『悪の花』
・『五月の青春』
・『賢い医師生活』S2
・『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』
・『ペントハウス』

 もうこれ以上の作品に出会うことはないかもしれない。そう思っていても、常に期待を超え続けてくれる韓国ドラマ。今年は、一線を超えたダークヒーローものや、スピード感のある骨太なサスペンスが多く見られたように思う。その一方で、漠然とした日々に疲れた心を包み込むような作品も。本記事では、今年日本で放送・配信された作品のうち、特に心に残ったおすすめのドラマ5作品を紹介したい。

『悪の花』

 壮絶な過去を隠して生きる夫と、夫を疑い始める妻を描いたサスペンス。金属工芸作家のペク・ヒソン(イ・ジュンギ)と刑事のチャ・ジウォン(ムン・チェウォン)は、仲睦まじい日々を送っていた。しかし、ある殺人事件を機に妻は“疑い”を持ち始めてしまう。“もし、愛する夫が連続殺人事件の犯人だとしたら……?”。刑事として事件の核心に迫る妻と、逃げる夫。彼は一体何を隠しているのか。2021年百想芸術大賞では、5部門にノミネートされ話題を呼んだ。

 こんなに胸が苦しいサスペンスは今まであっただろうか。本作の見どころは、“愛とは何か”を深く突き詰めて描いているところ。劇中では、息をのむような展開をノンストップで繰り広げながら、夫婦の関係性を映し出していく。正体を隠して生きてきた夫の妻や子どもに対する愛は、本物か偽りか。2人が互いの気持ちを確かめ合っていくシーンは、とにかく泣けて胸が張り裂けそうになる。ここまで登場人物に心奪われ感情移入してしまう理由の一つは、イ・ジュンギの存在が大きいと言っても過言ではない。ヒソンという役は、多面的な顔を持ち、複雑な心情を抱える難しい設定だ。あるインタビューでは、イ・ジュンギが本作の出演に迷ったことを明かすほど。だが、そんな心配を微塵も感じさせないのがすごいところ。喜怒哀楽の4つの感情を更に細分化して表現する彼の圧巻の演技は、スタンディングオベーションものだと思う。

 『ここに来て抱きしめて』『空から降る一億の星』『ただ愛する仲』のような作品がお好きな方に。癒えない心の傷を抱えた主人公の心情変化に、胸が押し潰されそうになりながらも、僅かな希望の光に救われていくような一作だ。

『五月の青春』

『五月の青春』(KBS2公式サイトより)

 1980年の光州を舞台に、時代の渦に巻き込まれていく男女の純愛を描いた物語。主演は、『Sweet Home -俺と世界の絶望-』で兄妹役を演じた2人が務める。トラウマを抱え医師になることを躊躇う医大生ファン・ヒテ(イ・ドヒョン)は、とある患者の一言で故郷の光州へ一緒に帰省することとなる。一方、光州の病院に務める看護師キム・ミョンヒ(コ・ミンシ)は、留学を夢見て必死に働く日々を送っていた。家計が苦しく夢のために忙殺されるミョンヒと、立派な家庭で育った婚外子のヒテ。交わるはずのなかった2人だが、“お見合いの代打”によって引き寄せられていく。彼の優しさに惹かれていくミョンヒだったがその矢先……歴史が大きく動こうとしていた。刻一刻と迫る、5月の半ば。本作は、光州民主化運動を背景に描く作品となっている。

 視聴後にOSTを聴いたら、5秒で泣いてしまうと思う。それほどに作品の世界に飲み込まれてしまった一作。全12話で無駄なシーンが一切なく、短編ドラマでここまで表現できるのかと感心してしまうほど。最終話にかけて散りばめられたパズルのピースがはまっていくと、本作の“本当に伝えたかったメッセージ”が浮かび上がってくるのも素晴らしい。さらに、若手実力派俳優陣が主要キャラクターを全身全霊で演じている点も見逃せない。相手を大切に思えば思うほどに、遠ざかる2人。そして彼らを取り巻く家族たち。翻弄されながらもそれぞれが導かれていく運命は、心に爪痕を残してくると思う。

 光州事件を背景に、ドイツ人記者とタクシー運転手を描いた韓国映画『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』のような作品に心揺さぶられる方に。序盤穏やかな雰囲気なのになぜか胸騒ぎが止まらない。そんな前半と後半でガラリと空気感が変わり、観終えた後のずしりとした重たさが残る一作だと思う。

『賢い医師生活』S2

『賢い医師生活』

 学生時代を共にした5人の医師が、それぞれに“最善を尽くす”姿を描いた物語。2020年にシーズン1が放送されて以来人気を博し、待望のシーズン2となる。前作では、40歳で同じ病院の医師として働くこととなった5人の日常と、隠されたラブラインを描く。シーズン2は、前作の続きから始まるため、第2章というよりは、続話という表現の方が近い。番組の企画意図でも紹介されている通り、“感動というよりも共感を描いた作品”で、小さいけれど十分に心を満たしてくれるような日常の出来事を映し出していく。

 唐突な話になってしまうのだが、心の拠り所ができた、というのが率直な感想。漠然とした不安な日々が続く中で、『賢い医師生活』は、常に観る人の背中を押してくれる。“大丈夫、きっときっとうまくいく”、“信じてる”、“前へ進もう”。どれも今まさに欲しかった言葉たちだ。愛してやまないキャラクターたちが、OSTやセリフを通して語りかけてくれるため、いつしか心に登場人物が棲みつくようになると思う。さらに、前作より増える“家族”の時間も見逃せない。今まで恋愛シーンにキュンとすることはあったけれど、もう恥ずかしくて観てられない! と思ったのは初めてかも。それほどに彼らと時間を共にしてきたからこそ、身内や親友の恋愛を垣間見ているような感覚になるのだと思う。そして、医者だからといってヒーローではなく、彼らもまた1⼈の人なのだと描かれるからこそ親近感が湧く。

 『応答せよシリーズ』や『賢いシリーズ』が好きな方に。細やかな演出まで堪能できるため、放送年順での視聴をおすすめしたい(参照:放送年順での視聴がオススメ? 『賢い医師生活』監督から紐解く今観たい韓国の人間ドラマ)。

『ナビレラ ーそれでも蝶は舞うー』

『ナビレラ ーそれでも蝶は舞うー』

 70歳でバレエを始めた男性と、バレエの才能溢れる23歳の青年を描いた物語。生計を立てることに必死で、自分の夢を置き去りにしてしまった70歳のシム・ドクチュル(パク・イナン)。幸せになることに罪悪感を感じ、心のままに生きることができずにいる23歳のイ・チェロク(ソン・ガン)。年の離れた2人は、ある日バレエスタジオで運命的な出会いを果たす。“バレエを始めたい”、決意を固めたドクチュルは、ある条件と引き換えにチェロクからバレエを教えてもらうこととなる。WEB漫画原作で、全12話の感動作だ。

 途中、泣きすぎて画面がよく見えないくらい号泣したと思う。本作のポイントは、70歳のドクチュルが、“チェロクのマネージャー”だということ。ドクチュルがバレエに取り組む姿に心を揺さぶられることはもちろん、マネージャーとしての彼の言葉に心が突き動かされるのだ。バレエの先輩チェロクと、人生の先輩ドクチュル。そんな2人が、自分に足りない点を少しづつ補っていく。この作品は、バレエをテーマにしたドラマでありながら、生き方を描いているのが魅力なのだと思う。“何かを始めるのに遅すぎることはない”。そんな力強いメッセージとともに観る人の背中を押してくれるため、毎日に疲れた全ての人に贈りたくなる。

 『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』のような作品がお好きな方に。誰にも分かってもらえず孤独に生きてきた主人公が、人生の指針となるような心のパートナーを見つけ生きる喜びを取り戻していくような一作。

『ペントハウス』

『ペントハウス』(c)SBS

 選ばれし者だけが住む高層マンションを舞台に、地獄のような復讐劇を描いたサスペンス。サブタイトル“WAR IN LIFE”の通り、とにかく過激に富と名声を奪い合う凄まじい作品。ある夜、100階建ての高級マンション“ヘラパレス”で衝撃的な事件が発生するところから物語は始まる。なぜ事件は起きたのか、犯人は一体誰なのか。シリーズ3部作で、韓国で高視聴率を記録した注目作だ。

 本作を観る上で、一度は言いたくなる言葉がある。それは……“そんなわけあるかい(笑)!”。それほどにツッコミどころが満載で、とにかく狂気的なのだ。劇中では、超えてはならない一線を越え続け、ぶっ飛んだ展開を爆速で繰り広げていく。1話見るたびに疲労感と疾走感が半端ないのは言うまでもない。しかし、本作の魅力は、手に汗握るスリル感だけではない。ヘラパレスの住人は欲望によって狂っていくのだが、その背景にはいつも子どもや家族の存在がある。時折垣間見える人間らしさや葛藤は、観る人の心を掴み、気づけば号泣してしまうこともしばしば。そして、全員主役のような怪演っぷりに目が釘付けになり、一度観始めたらもう止まらない。

 『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』や『夫婦の世界』のような作品が好きな方に。ここまでの展開は全て夢でした! という件を心の底から望んでしまうほど容赦ない展開を突きつけられ、1話観るごとにクタクタになってしまうような一作だった。

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