『悪の花』から『賢い医師生活』まで ライター陣が選ぶ、今観るべき2021年の韓国ドラマ

今観るべき2021年の韓国ドラマ

上原礼子編

1.『海街チャチャチャ』
2.『賢い医師生活』S2
3.『D.P. -脱走兵追跡官-』
4.『マイネーム:偽りと復讐』
5.『Mine』
次点:『ヴィンチェンツォ』、『調査官ク・ギョンイ』、『イカゲーム』、『ムーブ・トゥ・ヘブン:私は遺品整理士です』、『ある日~真実のベール』

 「韓国ドラマは次元が違う」。2021年は改めて、そう何度も思わされた1年となった。特に総額約520億円を投じたという(参照:Netflix、韓国作品に巨額投資 オリジナル映画や人気作の続編など新作ラインナップも発表)『イカゲーム』や『地獄が呼んでいる』、『D.P. -脱走兵追跡官-』、『マイネーム:偽りと復讐』などのNetflixオリジナル作品は世界中が熱い視線を送るのも納得の傑作揃いとなった。

『海街チャチャチャ』

 個人的には8月から10月にかけ、いろいろと懲りて「二度と観ない」と思っていたK-POPオーディション番組に再びハマってしまい(『Girls Planet 999:少女祭典』です)、毎週金曜日の夜は胃がキリキリするような思いをすることが多かったので、週末に更新される『海街チャチャチャ』が与えてくれる癒しが浄化作用のように効いてありがたかった。

『海街チャチャチャ』(tvN公式サイトより)

 『海街チャチャチャ』は終了間際にキム・ソンホのプライベートのスキャンダルが発覚し、映画や番組の降板騒動があったが、彼が演じた便利屋“ホン班長”とシン・ミナが演じた“歯科医”ユン・ヘジンとの丁々発止のやりとりは小気味よく、今年最も楽しみにしながら観た1作だ。いわゆる悪役は出てこない。三角関係はあるがドロドロしていない。コロナ禍だからこそ余計に沁みる、人の温かさが常にあった。

 シン・ミナが着こなすハイセンスなヘジンのファッションもさることながら、幼いころに母を亡くして以来、彼女が自力で身につけてきた“鎧”のようなものを、ドゥシクやコンジンの人々との関わりによって少しずつ取り払っていき、どんどん素直に、素の情の深さが現れていく姿が美しかった。実生活で、がんの治療に専念していた恋人キム・ウビンを支えたシン・ミナそのもののような気さえした。

 キム・ソンホ演じるホン・ドゥシクが、いつも朗らかにコンジンの人々にお節介を焼く理由も身に沁みた。たとえ激しい後悔や喪失に心を蝕まれていたとしても、それすらも誰かと分かち合えるって素晴らしいと、観ている側も素直に思えたのだ。

『賢い医師生活』

『賢い医師生活』(tvN公式サイトより)

 同様に、『賢い医師生活』も毎回微笑ましく、愛おしいドラマだった。もちろん命の危機も描かれ、うまくいかない切ない恋愛もある。でも、それを昇華してくれるチョ・ジョンソクやチョン・ミドらが奏でる音楽やOSTがあり、心からホッとできた。コロナ禍に開催されたオリンピックに全く関心のなかった私にとって、2021年の夏といえば、コンジンとユルジェ病院と『ガルプラ』しか思い出さないかもしれない。

 Netflixのランキングを集計している「FlixPatrol」によれば(※1)、2021年1月1日~12月25日まで、Netflix Japanで最も観られたTV番組は『愛の不時着』が2位といまだ根強い強さを誇り、続いて『ヴィンチェンツォ』が4位、『イカゲーム』が6位、『わかっていても』が8位、『海街チャチャチャ』は9位、『恋慕』が10位と続いている。11月21日にはTOP10圏内に1位『地獄が呼んでいる』、2位『イカゲーム』、3位『恋慕』、4位『真心が届く~僕とスターのオフィス・ラブ!?~』など、韓国ドラマが計7本もランクインしてニュースにもなった(※2)。

『D.P. -脱走兵追跡官-』

『D.P. -脱走兵追跡官-』

 こうしたランキングには入らず、『イカゲーム』の影に若干埋もれてしまった感はあるが、私にとっての衝撃作No.1は『D.P. -脱走兵追跡官-』だ。『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』や『ある春の夜に』、目下物議を醸している『スノードロップ』などのチョン・ヘインがイメージを覆す無骨な軍脱担当官(Deserter Pursuit)に扮し、脱走兵を追った。今、世界が注視する韓国コンテンツでこの題材を取り上げたことが何よりも称賛に値する。彼とバディを組んだハン・ホユル役ク・ギョファンの軽妙さも光った。『新感染半島 ファイナル・ステージ』のソ大尉役で初めて知ったが、『キングダム:アシンの物語』でも登場シーンはわずかながら存在感が圧倒的。クセ強めの悪役から一転、飄々としてつかみどころのないホヨル役は新鮮で、闇を抱えているチョン・ヘイン演じるアン・ジュノとの対比がよかった。アクションはチョン・ヘインに任せて、最後においしいところを持っていく名バディが誕生した。

 その中で、“ポンディー先生”ことチョ・ソクポン上等兵を巡る問題は国を超えた支持を得たようで、「ニューヨーク・タイムズ」は韓国ドラマとして唯一「Best international shows of 2021」の1本に本作を選んでいる。日本語では「いじめ」と訳されてしまうが、そこには逃れることのできない陰湿な脅迫や恐喝、暴行があり、性暴力も起こっている。製作が決定したシーズン2では、2014年に実際に起こった脱走兵による銃乱射事件が描かれることになるだろう。

『Mine』

 また、『海街チャチャチャ』や『ヴィンチェンツォ』と同じスタジオドラゴン製作による『Mine』では全く対照的といえる世界、財閥で生きる女性たちがイ・ボヨンやキム・ソヒョンらによって描かれた。詳細不明の殺人事件から幕が開き、財閥のサスペンスドラマなのかと思いきや“見えない壁”の中で「私のもの」=愛する子ども、家族、仕事、立場、居場所……などのために闘う女性たちの物語、「私の」尊厳や品格を守り抜くためにそれを奪おうとする者と闘う物語だった。

 命がけでもがく女性たちのドラマは、2021年の1つの象徴だった。『マイネーム』のハン・ソヒ、『イカゲーム』のチョン・ホヨン、『地獄が呼んでいる』のキム・ヒョンジュ、そして『調査官ク・ギョンイ』のイ・ヨンエ、『賢い医師生活』のチョン・ミド、『ヴィンチェンツォ』のチョン・ヨビン、『Mine』のイ・ボヨンや『恋慕』のパク・ウンビン、『海街チャチャチャ』のシン・ミナさえも、ときに血まみれ、汗まみれになり、傷だらけで、目に見える痛みも見えない痛みも抱えていた。そんな女性たちが自分の尊厳のために、あるいは誰かの尊厳のために闘っていた。ある意味、ジャンルが複合化する韓国ドラマにおいて女性像も多様化し、重層的になってきたのだ。キム・ダミがチェ・ウシクを困惑させる『その年、私たちは』や、ペ・ドゥナが宇宙生物学者役でコン・ユと共演する『静かなる海』なども、これから見届けるのが楽しみだ。

参考記事

※1.https://flixpatrol.com/top10/netflix/japan/2021/
※2.https://news.kstyle.com/article.ksn?articleNo=2181291

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