日々も、人生も、続いてゆく 『カムカムエヴリバディ』が描く“時間”の巧みさ

『カムカム』が描く“時間”の巧みさ

 祖母・母・娘、3世代の主人公がバトンを受け継ぐという、連続テレビ小説史上初の試みに注目が集まる『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)。1週目を終えたところですでに名作の予感がしている。長きにわたり週6話で親しまれてきた朝ドラが、2020年前期作品『エール』より週5話に変わった。さらに本作品では約半年の放送期間で、安子(上白石萌音)、るい(深津絵里)、ひなた(川栄李奈)の3ヒロインそれぞれの人生を描く。となると、単純計算して、週6時代・主人公が1人の朝ドラの3.6倍のスピードで物語を進める必要があるわけだが、第1週「1925〜1939」を観終えた時点で強く感じるのは、その条件がハンディになるどころか、作劇の精度をより上げさせているということだ。

 説明台詞をとことんまで排除した脚本、「生きている人間」が発する生きた言葉。空気や匂いまでが漂ってくるような、情感に訴える画作り。人物の来し方や背景を雄弁に物語る俳優陣の佇まいや表情。全体として台詞の量は多くないのに、言外の情報が実に豊かだ。

 たとえば第2話、チャップリンの『黄金狂時代』に感化された安子の兄・算太(濱田岳)が「ダンサーになりたい」と言い出し、菓子職人の修行を中断して大阪へ行くというエピソード。かの「パンのダンス」に天啓を受けた算太が、安子の前でおはぎに箸を差してチャップリンの真似をしてみせるのだが、この「完コピ」ぶりが、算太の情熱のほとばしりを物語る。何度も映画館に通い、その目に焼き付けたのだろう。

 算太は、祖父・杵太郎(大和田伸也)と父・金太(甲本雅裕)から「男ぁダンサーにゃあなれんのじゃ」と反対される。これまでの朝ドラで「当時の女性の生きづらさ」は繰り返し描かれてきたが、男性側の「生きづらさ」をも提示し、双方向から描くあたりが「令和の朝ドラ」といった趣だ。ところが、「お兄ちゃん、お団子作りょうるとき、いっこも楽しそうじゃねえもん」「おはぎのダンスはあねん楽しそうじゃったのに」という安子の言葉に、それまで反対していた金太の表情が一変する。唐突に見えた算太の宣言が、実は家族の皆が薄々感づいていたことであり、やがては絆されてしまうほどに算太の思いが強いことが伝わってくる。

 こうした、シーンからは省かれた「時間の経過」や「背景」が、観る者の心にすっと入ってくる。効果的な台詞とシーンを厳選して配置することで、冗長な説明を入れずとも、人物の気持ちがくっきりと立ち上がってくる作劇に唸る。このドラマの制作陣は完全に「時間」をものにしているようだ。

 尋常小学校の3年生だった安子が、第2話のラストシーンでは14歳になっている。小豆の香りに誘われて目覚めた安子が厨房へと駆け寄り、暖簾から顔を出すという、第2話冒頭の“再演”を通じて、5年の間、絶え間なく同じ朝の風景が繰り返されてきたことがわかる。かつて祖父の杵太郎が唱えていた「おいしゅうなれ、おいしゅうなれ」の願掛けを、今は代替わりした父の金太が唱えている。

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