日々も、人生も、続いてゆく 『カムカムエヴリバディ』が描く“時間”の巧みさ

『カムカム』が描く“時間”の巧みさ

 安子と稔(松村北斗)の初恋エピソードにおける時間の流れと細やかな心情描写も見事だ。稔が大学の夏休みに帰省し、手土産を買いに「たちばな」に来たのが、おそらくお盆あたりだろう。その数日後に、全国中等学校優勝野球大会のラジオ中継を町の皆が聴いているからだ。嶋清一選手による完封で海草中が下関商を下したこの試合が行われたのは1939年8月20日のことだ。

 憧れの彼、英語、自転車、コーヒー、ジャズ。14歳の安子に訪れた、初めてのときめき。第4話の自転車特訓と第5話の自転車特訓では、安子の着ているワンピースが違うので、2人は連日会っていることがわかる。帰り道に「たちばな」に寄った稔を目にしたきぬ(小野花梨)がすぐに状況を把握し、夏祭りデートに仕向ける策士ぶりを発揮する。ここ数日の安子の様子で恋をしているのがバレバレだったのだろうと想像できる。

 2人が夏祭りを歩くシーンは、まるで安子の胸の鼓動がこちらに聴こえてくるようだ。そこへ、子どもの頃から安子に思いを寄せる勇(村上虹郎)が割って入り、大会社を継ぐ兄と、和菓子屋の娘の安子では釣り合わないと冷や水を浴びせる。しかし勇の声色や表情から、恋心を持て余した14歳の少年の焦りと苛立ち、拙さ、口が滑って出てしまったひどい言葉への咄嗟の後悔など、様々な感情が見て取れた。現実を突きつけられ泣き崩れる安子の泣き声は聞こえず、ただ静かな劇伴が寄り添う。それでも翌朝、ラジオをつけて泣きながら英語を勉強する安子の姿が愛おしい。嬉しい日も悲しい日も、いつもラジオが側にある。

 お盆から始まった安子と稔の恋物語は、わずか2週間の出来事だった。稔が岡山を発つ朝、ラジオ英語講座が「今日は、今月学んだことの復習をいたします」と告げていることから、8月の末だとわかる。覚えたての自転車漕ぎで転びながら駅に向かい、稔を呼び止め安子が発したぎこちない「メイ アイ ライト ア レター トゥ ユー?」のセンテンスは、稔からもらった辞書で調べて、ずっと練習していたのだろう。安子の言葉を受け止める稔の表情から、会えなかった数日間の彼の思いが伝わる。「Of course. I will write to you in return.」と答えた瞬間、稔の安子に対する気持ちが、好意から恋愛感情へと変わったのが“見えた”。しかし、2人の恋の始まりと並行して、世の中には戦争の影が忍び寄っていた。

 100年のファミリー・ストーリーであるこのドラマは「時の物語」だ。週タイトルの年号は安子が生きた月日であり、毎話冒頭に現れるラジオのダイヤルを模した「話数ロゴ」が、時計の目盛りにも見えてくる。アニメーション作家・竹内泰人による切り絵アニメのOPは3世代の女性が歩む道程を円で表現しており、過去・現在・未来をめぐる円環構造、輪廻を感じさせる。わかりあえたりあえなかったり、晴れの日があれば雨の日もある。原爆ドーム、新幹線、太陽の塔が流れていく様に、この国の私たちの苦難と立ち直りを思う。日々の折り重なりの結果が人生であり、歴史だ。これから安子、るい、ひなたがどんな日々を重ねて物語を紡いでゆくのか、楽しみでならない。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる