演劇というライブ空間で味わう、演技者・松本穂香の力量 『ぽに』が描く現実との地続き

ライブ空間で味わう、演技者・松本穂香の力量

 加藤拓也が主宰を務める劇団た組の新作公演『ぽに』が、KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオにて上演中である。主演に松本穂香、共演に藤原季節らを迎えた本作が描くのは、「責任の所在」の問題だ。何か問題が起こったとき、その責任はどこの誰にあるのか。責任の押しつけ合いが横行する私たちの日常を、まるでゲームのようにリズミカルに舞台上に展開してみせている。

 物語は、一組の男女の会話からはじまる。そこはどうやらとある一室のようで、円佳(松本穂香)と誠也(藤原季節)は、肉体の交わりを終えたばかりのところらしい。いわゆるピロートークというやつである。いまこの瞬間のこと、少し先の将来のこと、そして円佳のアルバイトのことについて、二人は言葉を交わす。円佳にとって誠也は好きな相手だが、正式なカップルになることを先延ばしにされ、彼女は「海外に行きたい」という漠然とした想いを胸に、5歳児・れん(平原テツ)の面倒を見るバイト生活を送っている。


 これだけの情報量が、開演から冒頭の10分ほどで語りきられる。この二人がどういう関係にあり、互いが互いをどのように思っているのか、そしてこの社会において二人がどんな立ち位置にあるのかが、スピーディーに明確に提示される。彼らは将来性や計画性が乏しく、“危機感”のようなものがあまり感じられない。ひるがえってこの物語には、つねにこの危機感が漂っているのだ。すぐそばにある危機感に向き合わないということは、あらかじめ「責任」を放棄していることと同じなのではないかと思わされる。二人の肉体関係のあり方が(特に誠也の態度)、それを端的に物語ってもいる。とはいえ本作は、まだこれから。タイトルに冠されている「ぽに」なる存在も登場していない(しかし、ここで「ぽに」に深く触れると、これから観劇する方の驚きを奪ってしまうため避けておきたい……)。

 物語は、いつものように円佳が5歳児・れんの面倒を見ている最中、災害に見舞われることで大きく動き出す。二人は行き場を失うも、れんはいつもどおりに乱暴でワガママだ。これに耐えかねた円佳は、れんを見捨て、いつものように誠也の家に帰宅。翌朝、れんは43歳の姿になり、「ぽに」となって彼女の元を訪ねてくるーー。

 いくら不測の事態であったとはいえ、相手は子どもである。両親が帰ってこれなかったがための不本意ながらの時間外労働だったとはいえ、相手は子どもである。こうして、円佳に「責任」があったとされてしまうわけだ。この、いつ、どこででも起こり得る物語を展開させるのが、主演の松本率いる手強い座組だ。藤原、平原のほか、津村知与支、豊田エリー、金子岳憲、秋元龍太朗、安川まりらが顔を揃え、この“奇想天外なストーリー”と、そこから生まれる“普遍的なテーマ”を一丸となって体現。一人の俳優が複数の役を担当したり、現実にあるもの(例えば電車など)を別の何かで表現する“見立て”など、観客の想像力を刺激する演劇の醍醐味に満ちている。そんな本作でとにかく驚かされたのが、松本穂香の力量だ。観劇中は「驚きっぱなしだった」といってもいいくらいである。

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