『東京サラダボウル』松田龍平が放つ色気が凄まじい 『舟を編む』と重なる“言葉”を知る意義

松田龍平が『東京サラダボウル』で放つ色気

 言葉は生き物だ。新たに生まれる言葉もあれば、死んでいく言葉、時代とともに意味や用例が変化していく言葉もある。例えば、「やばい」という言葉は本来、「危ない」「不都合な」という否定的な意味を持つ形容詞だが、現代では「すごい」「最高」といった肯定的な意味で使われることが多い。大抵の場合は若者の間で流行し、徐々に市民権を得ていくものだ。

 それは日本語に限った話ではない。『東京サラダボウル』(NHK総合)第2話で、有木野(松田龍平)は取り調べ中に“誤訳”する。港区のマンションから隣人が激しい喧嘩をしていると通報があり、上麻布署に任意同行された中国人夫婦。夫に暴行を加えた妻にその理由を問うと、「ダーリェンラ(打脸了)」という言葉が返ってくる。

 「ダーリェンラ」は、中国語で「頬を殴った」という意味。有木野はそのまま訳し、上麻布署は妻が夫のDVに耐えかねて反撃したと結論づけた。だが、第1話で行方不明となったキャンディ(喬湲媛)の友人シェン(許莉廷)との会話の中で、有木野は「ダーリェンラ」という言葉が近年、中国の若者の間で「嘘がバレた」という意味のスラングとして使われていることを知る。妻が夫を殴った本当の理由は、夫が仕事を偽って不倫相手の女性と会っていたからだった。

 まさに「言葉は生き物」であることを実感した有木野。それを演じているのが、映画『舟を編む』の中で若者言葉も収録した“今を生きる辞書”づくりに奔走していた松田龍平であるのが面白い。ただ、この誤訳を面白いとは言ってられないのが警察通訳人の仕事。訳し方一つで誰かの人生を大きく変えてしまうのだから。

 なので、警察の取り調べでは、言い間違いや言いよどみも含めて一言一句訳す「逐次通訳」を使い、スピードよりも正確性を重視している。しかしながら、今回のように、いつの間にか本来の意味とは違った形で使われるようになった言葉もあるので、通訳人も常にアップデートが必要なのだ。

 有木野は中国語のスラングを学ぶため、しばらく足が遠のいていた張柏傑(朝井大智)のバーに顔を出す。通訳人には、そういう姿勢が何より大事なのだろう。これも『舟を編む』で出てきた台詞だが、「言葉の意味を知りたいとは、誰かの考えや気持ちを正確に知りたいということ」。有木野は通訳対象者に肩入れこそしないものの、持ち得る知識を全て投入し、その人の考えや気持ちを正確に伝達する。その誠実さは言語や文化の壁をも超えて相手に伝わるもので、有木野は誤訳で迷惑をかけたはずの中国人妻から「あなたの振る舞いは紳士だった」と逆に感謝されるのだった。

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