『おかえりモネ』百音×菅波、なぜ釘付けに? 安達奈緒子脚本のスローな恋愛劇を紐解く

安達奈緒子の“スローな恋愛劇”にハマる理由

 『おかえりモネ』の菅波もまた、理人に少し似て、不愛想で理屈っぽい人物である。しかも、付き合い始めたら急に、二人を茶化す森林組合の人々を前に「見せつけてやりましょうか」と大胆発言をしたかと思えば、「先生」「百音さん」と呼び合い、敬語で話し続けたり、遠距離恋愛で久しぶりに会ったのに仕事の話ばかりしていたり。

 明らかに何かあったとわかる生々しさを全身から発しているのに、本質的な「らしさ」はブレず持ち続けている。電話ではあからさまにイチャイチャするわけではないのに、長年連れ添った夫婦のような距離感を思わせる。しかし、こうした距離感の矛盾では、恋愛という2人だけの世界では、実はよく起こることではないか。

 『おかえりモネ』も『G線上のあなたと私』も、恋愛に不器用だな2人だからこそ、視聴者たちは「まるで中学生同士の恋愛のようにスローペースな2人をじれったく思いつつも応援している」感覚になる。しかし、不器用だからこそ、いつの間にか2人だけの言語を獲得していて、2人の世界や時間の流れ方がすっかり確立されていることに、周囲や視聴者はふと気づかされるのだ。

 これは「日常」の何気ないリアリティを丁寧に描く安達奈緒子脚本において、恋愛の移ろいや迷い、揺らぎもまた、日常シーンと地続きで描くからこそ起こる現象ではないか。

 視聴者にとってはずっと後方にいる2人を見守っていたはずが、いつの間にかずいぶん先を歩いていることに気づかされる。それは、ともすれば熟年夫婦か長年連れ添った老夫婦のようであり、「あれ? いつ追い抜いた?」と驚かされ、2人のその自然なありかたに微笑ましさを感じてしまう。きっと傍から見れば理解不能の2人のペースは、2人の中だけでは何の違和感も不思議もなく成立している。そして、それが恋愛であり、愛情なのだろう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

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