第73回エミー賞で露呈した2つの問題点 業界の変化に遅れをとるアワードの現状を分析

第73回エミー賞で露呈した2つの問題点

 9月19日(現地時間)に米テレビ界最高の権威とされる第73回プライムタイム・エミー賞(以下、エミー賞)授賞式がロサンゼルスで開催された。プラットフォーム別の受賞数ではNetflixが44で圧勝。アワード常連のHBO/HBO Maxは19、そのほか『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』が大金星となったApple TV+は10、エミー賞では有利とは言えないジャンルの2本『マンダロリアン』『ワンダヴィジョン』に注目が集まったDisney+は本戦では振るわなかったが、クリエイティブ・アーツ・エミー賞では14と受賞総数ではHBO/HBO Maxに続く結果だった。

ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』(c)2021 Marvel

 全体の印象としては2000年代に台頭し、2010年代のアワードシーンを席巻したケーブル局の時代から、追う立場にあった動画配信サービス主導の時代に移行したと言えそうだ。受賞結果の詳細はすでに当サイトにある記事を参照されたい(参考:第73回エミー賞、Netflixが最多受賞スタジオに 『メア・オブ・イーストタウン』も高評価)。本稿では授賞式&受賞結果を受けて、そこから何が読み取れるのかを解説しながら本年度のエミー賞の対象である2020年~2021年シーズン(アメリカのTV業界のサイクルは1年=1シーズン)の現況を振り返ってみたい。

 まず授賞式中継の視聴者数は、Varietyによれば今年は2020年より16.4%増となった。過去最低視聴者数の記録更新には歯止めがかかったが、5年前と比べると35%減となる(※1)。減少率はアカデミー賞の71%減、それに続くグラミー賞、ゴールデングローブ賞と比べるとエミー賞は約半分となるので、穏やかな現象と見ることができるかもしれない。もっとも全てのアワードショーの視聴者数は2016年から減少傾向にある。2020年~2021年にかけての急激な落ち込みにはパンデミックの影響もあるだろう。そうした中でエミー賞が視聴者数増に転じたのは、コロナ禍で動画配信サービスへの加入者が加速度的に増えたことで候補作になじみのタイトルが増えたことが後押しとなったのかもしれない。

第73回エミー賞会場の様子

 とはいえ、未来は明るいとは言えない。若い世代は従来の方法(TV)で長時間の式典を見ることを好まない(ハイライトで十分)という傾向は調査でも裏付けされており、各アワードショーが小手先のテコ入れ(アカデミー賞やエミー賞で見られた発表する部門の順番を従来と変えることに代表される)でどうにかなるとは思えない。“テレビ離れ”とセットで語られることも多いアワードショー自体が岐路に立たされているのである。ちなみに前回の授賞式より視聴者数が増加したのはエミー賞とBETアワード(エンターテインメント業界で活躍しているアフリカ系アメリカ人や他のマイノリティの人々に対して贈られる)のみである。

HBOドラマ『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』(全10話)(c)2020 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.

 このような視聴者の傾向や数字は、エミー賞(やほかの主要な賞)が何か時代にそぐわないのではないかといった違和感を多くの視聴者が抱いていると同時に、視聴者のニーズを賞の関係者が理解していないことの証左でもあるだろう。エミー賞授賞式前の9月17日に一挙配信されて話題をさらった『セックス・エデュケーション』S3や、授賞式翌日に最終話を迎えたネイティブ・アメリカンにフォーカスしたスターリン・ハルジョ、タイカ・ワイティティの新作『Reservation Dogs(原題)』を観ると余計に、そうした思いは強くなる。この2作が来期のエミー賞に候補入りする可能性はあるが、2020年~2021年シーズンにもこうした今の時代に伝えるべき物語をつむいだ秀作はたくさんあった。個々の詳細は省くが『The Good Lord Bird(原題)』『Small Axe(原題)』『IT'S A SIN 哀しみの天使たち』や、エミー賞候補にはなった『地下鉄道 ~自由への旅路~』『POSE/ポーズ』『ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路』、そしてミカエラ・コールの受賞は快挙ではあったが『I May Destroy You(原題)』といった作品は冷遇された印象はぬぐえない。現実として質・量ともに充実しているテレビの黄金時代にあって、いまだ十分ではないものの人材や題材の多様性は目に見えて前進している。自分たちが普段楽しんでいる番組には既にこれほどの多様性があるのに、エミー賞はそうした現況を反映しているのか? という疑問を視聴者が抱くのは自然なことだと思う。

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