第73回エミー賞で露呈した2つの問題点 業界の変化に遅れをとるアワードの現状を分析

第73回エミー賞で露呈した2つの問題点

 近年はどのアワードでも多様性が争点となるが、今年の受賞結果はまたしても#EmmySoWhite(白人だらけのエミー賞)とSNSで批判の声が挙がる受賞結果だった。一方でベストバラエティシリーズで『ルポールのドラァグレース』のルポール・チャールズ、『I May Destroy You』のミカエラ・コール(この夜一番の盛り上がりを見せた)、ルシア・アニエロとジェシカ・ホッブズの女性監督がそれぞれコメディ部門、ドラマ部門の監督賞受賞が歴史を作った。『Hacks(原題)』のジーン・スマートの受賞はハリウッドのエイジズム(年齢による差別)への痛烈なメッセージという見方もできる。テーマや主人公が女性という作品も多かった。賞を席巻した『ザ・クラウン4』『テッド・ラッソ』『クイーンズ・ギャンビット』『メア・オブ・イーストタウン/ある殺人事件の真実』が、最高峰の質を誇る作品群であることは間違いない。問題は受賞作や受賞者ではなく、あまりにも少数の作品、今年でいえばほぼ12のシリーズに受賞やノミネートが集中したことにあるという指摘は米有力紙でも議論されている(※2)。ちなみに2019年は18、2020年は14だった。こうした傾向は「作品数が多過ぎる」ことが要因であると考えられる。

『クイーンズ・ギャンビット』Netflixにて独占配信中
THE QUEEN’S GAMBIT Cr. PHIL BRAY/NETFLIX (c)2020

 動画配信サービス全盛期に突入して以来、増え続ける作品数はコロナ禍でにぶったとはいえ高い水準を保っている。今回でいえば投票するテレビ芸術科学アカデミーの会員が133のドラマシリーズ、68のコメディシリーズ、41のリミテッドシリーズ、41のテレビ映画のすべてを観て評価する時間があるとは思えない。詳細は割愛するが投票の過程や方法の問題点も、かねてより指摘されている。このような背景から現況との乖離が生まれ、結果として偏った印象を与える受賞結果となったと考えることができるだろう。

第73回エミー賞会場でのスコット・フランク

 もう一つのフラストレーションは、各カテゴリーもまた業界の変化に対応できていない、現況にそぐわない点だ。近年もっとも充実しているのは10話以内で完結するリミテッドシリーズである。今年の一番の激戦区でもあり、だからこそ今年の授賞式では作品賞の発表を通常ならドラマシリーズ部門でしめるところをラストに持ってきたのだろう。しかし肝心な部門であるのに「リミテッドシリーズ/テレビムービー部門」としてまとめられていることで、候補作は5本に限定され、今年は全体的に弱いという印象はぬぐえないテレビムービー部門の候補作を考えると、余計にリミテッドシリーズの枠の少なさを残念に思う。さらに同カテゴリーの俳優部門に至っては、バラエティ・スペシャル〈録画〉部門からトニー賞に輝く傑作ブロードウェイミュージカル『ハミルトン』のキャストが複数入っていた。『ハミルトン』に問題があるのではなく、この区分に納得する視聴者はほぼいないのではないだろうか。ブロードウェイの人気作を収録した作品はNetflixを筆頭に各配信サービスで今後急増することは必須なため、新たな定義なりカテゴリーなりを作ることは喫緊の課題だと思う。

第73回エミー賞会場の様子

 さらに言えば、リミテッドシリーズの活況は比較的近年のことだが、ドラマシリーズ、コメディシリーズともに新作と継続シリーズを分けた方が良いのではないかという意見は根強くある。3シーズン以上も続くシリーズには思い入れが生じ、それが継続シリーズの良さではあるが思い入れや愛着が生じることからフラットに新作と比較するのは難しい。このことは既に一定の評価を得ている作品への投票者の依存が高くなる傾向にもつながっていると考えられる。新作と継続シリーズを分けて評価する賞はTCA(テレビ批評家協会賞)など他に例があるが、要はどちらが良いのかではなく、多様化した数多くの作品を評価する方法を真剣に模索するべき時期にあるということなのだ。それは筆者のような批評家にも言える問題である。もちろんどんな賞もあくまでも一つの結果に過ぎないが、エミー賞はEGOTという略称もあるようにアカデミー賞、グラミー賞、トニー賞と並ぶ世界が注目するアメリカのエンターテインメント業界を代表する賞の一つであり影響力は大きい。今初めて感じる問題ではないが、今年のエミー賞について考える時、アメリカのTV・動画配信サービスの現況がアワードを運営する人々よりも何歩も進んでいることを思わずにはいられない。

参考記事

※1:EMMYS AUDIENCE JUMP DOESN’T SPELL END OF ERA OF AWARDS SHOWS DECLINE|Variety
※2:Why #EmmysSoWhite and Persistent Sweeps Reveal Larger Problems With Emmy Voting Procedures|Variety

■配信情報
「第73回エミー賞」
U-NEXTにてアーカイブ配信(字幕版)独占配信中
https://video.unext.jp/title/SID0062003 
配信形態:見放題
(c)Television Academy.
第73回エミー賞特設ページ: https://www.video.unext.jp/lp/73rd_emmy_award

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる