マーゴット・ロビーが体現する反逆のマニフェスト ハーレイ・クインまでの道のりを辿る

ラッキー・チャップのマニフェスト

「自分が主演を務めるために会社を設立したわけではありませんし、私が夢を追いかけるためのプラットフォームでもありません。女性の物語や女性のストーリーテラーが、この業界で出来ることを広げたいと思っていますが、そのために私がスクリーンに映る必要はないのです。しかし、このプラットフォームがそのような扉を開くことができるのですから、素晴らしいポジションにいると思います」(※1)

「どのようなビジネスを始める際にも、まず市場のギャップを見極める必要があります。このプロジェクトは、“女の子の役ではなく、男性の役を演じたい”と思ったことから始まりました。そして、それは私だけではないはずです。素晴らしい役を得られていない素晴らしい女優たちがいるのです。さらに、男性と女性の監督、男性と女性の脚本家などの統計を見ても、やるべきことはたくさんあります。このような統計を知って、何もせずに座っているわけにはいきません」(※1)

『ドリームランド』(c)2018 DREAMLAND NM,LLC

 製作会社ラッキー・チャップ(名前の由来は”飲みすぎのチャップリン”)を立ち上げたマーゴット・ロビーは、これまでに、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(クレイグ・ギレスピー監督/2017年)を皮切りに、『アニー・イン・ザ・ターミナル』(ヴォーン・スタイン監督/2018年)、『ドリームランド』(マイルズ・ジョリス=ペイラフィット監督/2019年)、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(キャシー・ヤン監督/2020年)、そしてキャリー・マリガン主演の『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督/2020年)と、意欲的な長編映画をハイペースで送り続けている。さらに、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(2019年)を手がけたグレタ・ガーウィグ監督による新作『Barbie(原題)』も、ラッキー・チャップの製作リストに入っている。

 映画業界におけるジェンダーバランスの是正を目指すラッキー・チャップは、マーゴット・ロビーが辿ってきたフィルモグラフィーからのフィードバックに基づいている。そしてそれは、マーゴット・ロビーがハーレイ・クインという稀代のキャラクターを演じることと、分かちがたく結びついている。

 すべてはハーレイ・クインの人より四手先を読む号令の合図で始まる。ハーレイ・クインは何もかもが早い。ハーリーン・クインゼル博士とハーレイ・クインの双極を行き交う早さは、解明できない精神の回路を介して世界に解き放たれる。マーゴット・ロビーが言うように、「ハーレイ・クインはカオスの原点」なのだろう(※2)。ジェームズ・ガン監督にとっての「戦争映画」である『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021年)では、ハーレイ・クインの放つ砲弾が、思いがけないタイミングで上陸作戦の狼煙をあげ、ハーレイ・クインの履く黒いブーツが、スクワッドの反撃を開始する合図となっている。アクションの歩調、物語の歩調は、ハーレイ・クインから始まる。そしてハーレイ・クインには「決してこどもを殺めてはいけない」という鉄のマニフェストがある。

 マーゴット・ロビーがプロデュースに専念した『プロミシング・ヤング・ウーマン』では、キャシーに天使のイメージと骸骨のイメージがサブリミナルのように配置されていた。また、復讐劇である『アニー・イン・ザ・ターミナル』では、キャシーのナース姿の原型が準備されていた。大好物のベーコンエッグサンドを大切そうに両手で持って路上を歩くハーレイ・クインと、『プロミシング・ヤング・ウーマン』で、ホットドッグを頬張りながら路上を歩くキャシーのイメージは、どこか重なっている。そして彼女たちには独自のマニフェストがある。

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