『ザ・スーサイド・スクワッド』が前作から引き継いだ精神 ジェームズ・ガンの“成長”も

『ザ・スーサイド・スクワッド』を前作と比較

 バットマンやスーパーマンをはじめとするヒーローなどに敗れ、収監されたヴィラン(悪党)たちが、アメリカ政府の指揮のもと自滅必至の危険な任務に送り出される……そんな、凶悪かつ哀れな戦いが描かれるのが、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』だ。

 “スーサイド・スクワッド”といえば、2016年に公開された、同じくワーナーの映画『スーサイド・スクワッド』が記憶に新しい。本作『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』は、そこで人気キャラクターとなった、マーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインが登場するものの、正統な続編というわけではないようだ。本作の原題は、『The Suicide Squad』。前作の原題『Suicide Squad』に定冠詞が加えられており、続編ではなく「本作こそが“真の”『スーサイド・スクワッド』だ」と、いわんばかりなのだ。

 このような状況が生まれたのには、複雑な経緯がある。じつは、2016年公開のデヴィッド・エアー監督版『スーサイド・スクワッド』は、大ヒットを達成したものの、観客の評判自体はそれほど良くなかった。もともと、『スーサイド・スクワッド』に大きな期待が寄せられることになったのは、クイーンのカバー曲が使用された予告編がスタイリッシュで刺激的なものだったことが大きい。その期待のなかには、マーベル・コミック原作のヒーローたちが結集した映画『アベンジャーズ』の人気を受けて、DCコミックス原作映画では“ワル”たちが活躍するという、クールな試み自体への賞賛もあったはずである。

 だが、そんなデヴィッド・エアー監督の『スーサイド・スクワッド』を鑑賞した観客のなかで少なくない人々が、内容に不満を漏らすことになった。その意見には、作中のヴィランたちの行動が、思ったほど“ワル”に見えなかったという意味のものが多い。予告編で見せた、暴虐の限りを尽くしていたかのような印象は、たしかに本編ではそれほど感じられないのだ。

 デヴィッド・エアー監督からジェームズ・ガン監督にバトンタッチした本作は、とくに冒頭から中盤にかけて、そのような声に応えるように、皮肉なユーモアを交えた過激なバイオレンス描写を連続して見せてゆく。クエンティン・タランティーノ監督のオマージュでもお馴染みの、70年代に隆盛した「ブラックスプロイテーション」を想起させる演出で、とくに悪党たちの決死の上陸作戦と、ジャングルでの急襲作戦を残虐かつ魅力的に描いているのだ。

 その過激さは、ジェームズ・ガン監督の過去の傑作『スーパー!』(2010年)で見せた、不謹慎な作風を発展させたものだ。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズでは比較的大人しい演出で、その狂気を封印してきたガン監督だが、本作では逆にそれが義務であるかのように、暴力的な描写をこれでもかと連発している。結果として、日本でも本作はR-15指定作品に引き上げられる作品になった本作は、エアー監督の『スーサイド・スクワッド』に不満を抱いた観客にとって、「5年越しに観たいものが観られた」という感覚だろう。

 しかし、エアー監督の『スーサイド・スクワッド』は、果たして本作に“The”を名乗られてしまうほど、つまらないものだったのだろうか。

 公開当時の評(『スーサイド・スクワッド』が悪役たちを“人間らしく”描いた理由ーーデヴィッド・エアーの真意は?)にも書いたように、エアー監督は、自身の育った凄絶な環境を基に、“悪党”をエキセントリックなものとして強調せず、等身大の人間として描くことで、リアリティのある世界を描いていたのだ。その意味においては、エアー版の方がガン版よりも、じつは奥行きのある作品だったのではないか。

 デヴィッド・エアー監督は、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』が公開されたことで、前作がことあるごとに比較対象にされ、貶されることにうんざりしたらしく、Twitterで声明を発表するに至った。そこでは、やはり自身の生い立ちや軍隊経験などを通した、自分の体験が作品に影響を与えていることが示唆されている。

 ある事情によって“悪”のはびこる世界に足を踏み込み、軍では消耗品として扱われる……エアー監督の個人的な経験は『スーサイド・スクワッド』の世界そのものであり、だからこそエアー監督は演出と、自身で書いた脚本で、スーサイド・スクワッドの面々を“ヴィラン”ではなく“人間”の集まりとして描いたのである。もちろん本作にも、貧困問題や政府の非情さを描いている部分はあるが、前作よりも客観的で、当事者性の薄い見方がベースにあるように感じられるのだ。

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