マーゴット・ロビーが体現する反逆のマニフェスト ハーレイ・クインまでの道のりを辿る

アイコン/反アイコン

 マーゴット・ロビーはマーティン・スコセッシ監督の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年)でブレイクスルーを果たす。実業家ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)の妻ナオミ役は、同じスコセッシ監督の『カジノ』(1995年)におけるシャロン・ストーンのように、成功の甘き香りと誘惑による代償を、栄枯盛衰のアイコンとして体現している。マーゴット・ロビーは、ナオミについて次のように語っている。

「ナオミにとって、自分の体がこの世界での唯一の「通貨」だということが重要なのです。(中略)彼女は裸でなければならないのです。彼女は自分のカードをテーブルの上に置いているのですから」(※3)

 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』以降、マーゴット・ロビーの元には、同じような役(「ホットなブロンド美女役」)のオファーが殺到したのだという。マーゴット・ロビーは、それらのオファーをことごとく断り、自分が話し合いに参加できるような作品へと路線を切り始める。

「誰かに任せたくないときもあるし、すべての決定を任されたいというわけでもありません。すべての決定を任されるだけの知識はありませんが、話し合いには参加したいと思っています」(※4)

 アンドレイ・タルコフスキーの作品を参考にしたという静かな野心作『死の谷間』(クレイグ・ゾベル監督/2014年)では、一転して身寄りのない素朴な農家の女性を演じている。核戦争後に取り残された世界を描く本作では、クリス・パイン演じる新たな来客によって、ヒロインを巡る三角関係が目に見えない暴力として繰り広げられる。マーゴット・ロビーは精神的にも身体的にも何処にも行けないヒロインの感情を見事にトレースしている。

 『ラブ・アゲイン』(2011年)のグレン・フィカーラとジョン・クレア共同監督による、ウィル・スミスと共演した『フォーカス』は、一流の詐欺師同士の恋愛を描いた傑作だ。相手をどこまで信じていいのか分からない、恋人たちの付かず離れずなスリルと、二人のスターが画面に放つ「艶」が見事に調和している。ウィル・スミス演じるニッキーによって、三流の詐欺師から一流の詐欺師に成長していくジェス(マーゴット・ロビー)は、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のナタリーとは似て非なる女性像だ。ナタリーが自身を「通貨」そのものと捉えて、唯物的に世を渡っていたとすれば、ジェスは技術の鍛錬によって、「通貨」の裏に隠された「(恋愛)感情」を根こそぎ奪い去っていく。『フォーカス』の放つスリルは、二人の男女による感情の盗み合い、お互いの感情を「狩る」というアクションに宿っている。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 クエンティン・タランティーノ監督による『ワンス・ア・ポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)では、無残な事件によって早逝した伝説の女優シャロン・テイトを演じている。プッシーキャット(マーガレット・クアリー)をはじめとするヒッピーの女の子たちの、天使の降臨のようなストリートの登場シーンや、ほのかに風に揺れる彼女たちの長い髪、そしてもはや作家の烙印となった女性の足の裏へのフェティシズムに至るまで、クエンティン・タランティーノらしい女性の撮り方が如何なく披露されている本作にあって、マーゴット・ロビーもまた、その身振りをフェティッシュに撮られている。ロマン・ポランスキーの運転する車でプレイボーイ・マンションのパーティーに向かうシャロン・テイトの、ほどいた髪の揺れ方の美しさ。カットの起点をシャロン・テイトのダンスで始める動的なショットの数々。そして映画館で前の座席に足をかける際にカメラに捉えられた足の裏。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

 自分のことをよく知らない映画館の従業員とポスターの前で記念撮影をするショットに浮かび上がる悲哀は出色の出来だ。クエンティン・タランティーノは、アイコンとしてのシャロン・テイト=マーゴット・ロビーを忠実に捉えながら、アイコンの背後にある悲哀を丁寧に描いていくことで、フィクションにはフィクションの天国があることを浮かび上がらせる。マーゴット・ロビーが、パンアメリカン航空のロゴを捉えた次のショットに登場することも含め、シャロン・テイト、そしてマーゴット・ロビーへのオマージュともいえよう(マーゴット・ロビーはドラマ『PAN AM/パンナム』に出演している)。

 メアリー女王を演じるシアーシャ・ローナンの天才的な演技に対する、病を患ったエリザベス女王としての「受け」の演技が素晴らしい『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(ジョージ・ルーク監督/2018年)を含め、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でブレイクして以降のマーゴット・ロビーの作品選びには、ある共通点がある。恵まれているように見えながらも、常にアンダードッグの精神で世界に挑戦していく女性の肖像だ。それはラッキー・チャップの第一作作品『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』で、最初の頂点を迎える。



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