意義深いアニメーション作品 現実ともリンクする『ホワット・イフ…?』のメッセージ

 映画のみならず、ドラマシリーズも次々に送り出しているマーベル・スタジオのヒーロー作品。本作『ホワット・イフ…?』は、そんなマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のアニメーションによる配信シリーズだ。

 日本語では、「もし仮に……」という意味になる、『ホワット・イフ…?』は、そのタイトルの通り、これまでのMCUのストーリーとは異なる、“もしも”の世界が描かれる。第1話は、「もしも…キャプテン・カーターがファースト・アベンジャーだったら?」。第2話は「もしも…ティ・チャラがスター・ロードになったら?」、そして第3話は「もしも…世界が最強のヒーローたちを失ったら?」というように、登場キャラクターがこれまでとは異なる役回りになったり、物語が異なる道筋を辿っていくシリーズなのだ。

 MCUのシリーズで近年描かれているのが、宇宙が多数の世界に分岐している「マルチバース」という世界観だ。この考え方については、「【ネタバレあり】『エンドゲーム』に残された謎 アベンジャーズの作戦を科学的視点から読み解く」で深く解説しているので、ぜひ読んでみてほしい。

 そしてこのマルチバースは、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)をはじめ、ドラマシリーズ『ロキ』、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(近日公開)でも重要な要素として登場する。さらには、ソニーで製作されたスパイダーマン作品『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)もマルチバースを主題としていた。スパイダーマンの独占的な映画化権の獲得を狙うディズニーの後ろ盾によって、後々MCUに、このスパイダーバースの世界も合流することになるかもしれない。

 無限に近い選択肢のある「マルチバース」の概念を基にすれば、既存の人気キャラクターを利用しながら、どんな物語を描くことも可能となる。次々に話題作を送り出していかねばならないマーベル・スタジオが、それをエンターテインメントとして貪欲にエピソード化したものが本シリーズなのだ。とはいえ、これまでの作品と同列に実写映像化してしまえば、既存の作品との区別がつかなくなり、すべてが陳腐なものに思えてしまう可能性がある。また、ロバート・ダウニー・Jr.など出演者によってはキャスティングが難しい人物が存在するのも確かだ。本シリーズがアニメーション作品となったのは、そういった理由がありそうだ。

 しかし、アニメーション作品ならではの興味深い点もある。本シリーズでは、3DCGが使用されながら、同時に「トゥーンシェーディング」といわれる、3Dを平面的に見せる加工が用いられている。これは、CGを手描きアニメ風に表現したり、よくTVゲームなどに用いられている手法で、これによって本シリーズは、もともとの原作であるマーベル・コミックの雰囲気に、これまでになく近づいたものになったといえるだろう。従来の手描きアニメでは、手間の関係でどうしてもキャラクターの表現が簡易的にならざるを得ず、コミックのリアルさや風合いがなかなか出せなかったのである。

 とはいえ、作り手は単純にコミックの味わいをそのまま再現しようとしたわけではないようだ。海外メディアの取材によると、20世紀に活躍したイラストレーターのJ・C・ライエンデッカーの画風を、全体の絵柄の参考にしているという。ライエンデッカーといえば、硬質的で艶かしい絵柄で美しく人物を描き、アメリカの雑誌「サタデー・イブニング・ポスト」の表紙などを手がけた人物として有名だ。

 ライエンデッカーの作品の特徴の一つとなっているのが独特なライティング。顔や身体の縁の部分がハイライトによって輝き、彫刻のように硬質的な美が表現されているのだ。それを知ると、本シリーズのキャラクターの一部分が常に強い光を反射しているのも納得できる。アメリカの一時代の大衆文化を席巻し、雑誌を彩ったライエンデッカーのスタイルは、リアリティあるアメリカンコミックの絵柄に大きな影響を与えている。『ホワット・イフ…?』は、アメコミそのものでなく、その源流にまで遡ることで、クラシカルな気品と、アメリカのヒーロー作品としての象徴性を帯びた雰囲気を、より強く纏ったヴィジュアルを目指しているといえよう。

 だがもちろん品質の点で、ライエンデッカーの絵柄をそのままアニメーションとして動かすというような境地にまで到達しているとは言い難い。それでも本シリーズの試みは、実写と絵の魅力の結節点を探るという意味で、意義深いアニメーション作品になっているといえよう。この着地点をベースに、さらに新たなアニメーション表現が派生し、より洗練されたものが登場することだろう。



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