『おちょやん』千代を救った“自分が作ってきた道” 第21週で描かれた女優としての再生

『おちょやん』千代を救った“自分が作ってきた道” 第21週で描かれた女優としての再生

 予想の上の、さらに上をいく驚きの展開に、魂を揺さぶられた1週間だった。『おちょやん』(NHK総合)第21週「竹井千代と申します」では、全てを失った千代(杉咲花)が人間として、そして女優として再生する姿が描かれたが、どん底の千代を救い出すのがなんと、9歳の千代を生まれ故郷から追い出した、あの継母の栗子(宮澤エマ)だったのだ。

 鶴亀新喜劇1周年記念公演の千秋楽を終えた後、家を飛び出した千代が向かった先は、昔、岡安をクビになりかけ路頭に迷い辿り着いた大きな寺門。あの時と同じように『人形の家』の台本を抱え、行くあてもなく雨の中、茫然と父母弟の写真を見つめる千代を迎えに来たのは、栗子だった。

 栗子は30数年前、千代から家族を奪ったことを詫びる。そして、自分は老いて身体が思うようにならない、自分の孫で千代にとっては姪にあたる春子(毎田暖乃)の面倒をみてくれないかと千代に頼む。突拍子もない“勝手”な願い出に、千代はこれまで耐えて押し殺してきた感情を爆発させる。

「あんたのせいで、うちの人生めちゃくちゃや。あの子も、灯子も、戦争で家族亡くして1人になってしもた? さみしかったて? ずるいわ。うちはもっと前からずっと1人やった。誰も面倒見る人いてへんのやったら、奉公にでも出したらよろし。うちを追い出した時みたいに」

 その会話を襖越しに春子が聞いている。栗子が春子を抱きしめる。そうだ、母亡き後、千代が子どもの頃はこうして抱きしめてくれる人さえいなかったのだ。千代の長い長い孤独が、波濤のように迫ってくる。しかし、すぐに我に返って駆け寄り、「堪忍、ひどいこと言うてしもた」と涙ながらに春子に詫びる千代。私たちがよく知る竹井千代は、そういう人だ。自分が受けた傷を他の人になすりつけたりしない。

 栗子の口から静かに、彼女の「これまで」が語られる。酒と博打に溺れてますます借金を膨らますテルヲ(トータス松本)から離れて1人で子を産み、女手一つで娘のさくらを育てたこと。さくらへの愛情が芽生えて大きくなればなるほど、あの時追い出してしまった千代を思い出し、罪悪感に苛まれてきたこと。戦争でさくらを亡くし、絶望のあまり後を追おうとさえ思ったこと。孫・春子の存在がそれを思いとどまらせたこと。

 そして千代は、学校にも通えず文盲の栗子が、自分と同じような身の上だったのだと思い至る。あの時、三味線以外ろくに荷物も持たずに千代たちの家にやってきた栗子の人生が、ここで一気に形をおびてくる。会わない30余年の間、栗子には栗子の壮絶な人生があった。彼女も生きるのに必死だった。前週では「人の心は変わる」という抗えない摂理を、一平(成田凌)との離別で思い知らされ千代だったが、栗子の千代への思いは、その逆だった。長い年月と経験を経て、栗子の心は佳き方へと変わっていったのだ。

 子ども時代の苦難に加え、一平との離別で、二度にわたり自分の存在を否定された千代の深い心の傷を癒すことができるのは、かつてその原因を作った栗子しかいない。その栗子が「ただおってくれるだけでええ」「おおきにな」と、千代の存在をまるごと肯定する。それこそが千代の心の傷の「根元からの治療」だ。

 これまで千代が歩んできた道、してきたこと、出会った人々、かけられた言葉、かけた言葉が、すべて回り回って千代のもとに還ってくる。そしてそれらが千代を救うのだ。考えてみれば、かつてはひどい継母にしか見えなかった栗子が、岡安という奉公先の話を持ってこなければ、今の千代はいない。

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