『俺の家の話』の寿一は長瀬智也自身とも重なる? 第9話で感じた“終わり”の接近

『俺の家の話』徐々に近づく“終わり”の瞬間

 踊介(永山絢斗)と舞(江口のりこ)が家に寄り付かなくなり、寿限無(桐谷健太)は家出をし、寿三郎(西田敏行)はグループホームに入り、広い家に残されてしまった寿一(長瀬智也)。さらにさくら(戸田恵梨香)も、殺気を放ちつづける寿一に不満を抱いて出て行ってしまうのである。前回から半年の時間が経過した3月19日放送の『俺の家の話』(TBS系)第9話は、たしかに近付いてくる“終わり”さえもしっかりと笑いへと昇華させる、またしても見事なエピソードであった。

 ある日、半年ぶりに観山家に帰ってきた寿限無。寿一は自分が家に戻ってきたときに寿限無が迎えてくれたように、その突然の帰宅を歓迎する。そして寿三郎のいるグループホームへと出掛け、スーパー世阿弥マシンに扮して老人を喜ばせると、自分がまだプロレスを続けていたことを寿限無に打ち明けるのだ。そんな中、寿三郎が認知症専門のグループホームに入ったということが週刊誌やワイドショーで報じられることとなり、観山家には分家の当主である万寿(ムロツヨシ)を筆頭に、寿一が二十八世宗家を継ぐことに反対する門下生たちが集まることに。

 グループホームから抜け出し、稽古場の舞台の前で脳梗塞で倒れてしまう寿三郎。踊介ら家族みんなが久しぶりに集合し、ソワソワとしている横で寿一は、寿三郎が望んでいた通りの葬儀ができるように葬儀屋(塚本高史だ!)とプランを練っていたり、遺影に使う写真の加工をしていたりと、淡々と長男としてやるべきことをこなしていく。さらに皆が寿三郎を囲み、思い思いに言葉をかける中で、なにもかける言葉が見つからない。いつのまにか、冷静に寿三郎との別れを受け止めてしまっている自分に気付いてしまうのだ。

 前回描かれた、グループホームに寿三郎を預けるくだり、それは寿一にとって“父親”である寿三郎との別れに他ならない。今回門下生たちを前に、「バカ息子と言っていいのは親父だけだ」という言葉を放つその殺気。そこにあるのは寿三郎に対する敬意を超えた畏怖の念、つまり“師”としての寿三郎に向けられたものであろう。介護をすることで取り戻した父と子の関係が、介護から離れたことでまた失われてしまい、能の師匠であるということだけが残る。だからこそ寿一はスーパー世阿弥マシンとして家族や門下生たちの前に現れ、意識のない寿三郎の目の前で面を外し、プロレスラーになったバカ息子として“父親”にもう一度会いに行く。それはもはや、介護も能をも超えた瞬間であり、寿一と寿三郎が初めて純然と親子として向き合う瞬間ではなかっただろうか。

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