『ホットスポット』と『ブラッシュアップライフ』の共通点 高橋さんにバカリズムを投影?

2025年冬ドラマがいよいよ出揃った今、まだ序盤にもかかわらず、『ホットスポット』(日本テレビ系)はその独自の世界観に視聴者をしっかり引き込んでいる。『アンナチュラル』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の市川実日子が民放ドラマ初主演かつ脚本担当のバカリズム率いる『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)チーム最新作とあって、ひときわ注目度も高かったはずだ。
主人公の遠藤清美(市川実日子)は、山梨県のビジネスホテルで働くシングルマザー。職場の人間関係も良好で、つつがない日々を送っていた。そんなある日、清美は交通事故に遭うのだが、間一髪で同僚の高橋さん(角田晃広)に助けられる。しかし、高橋さんはどこから見ても普通のおじさん。突っ込んできたトラックから清美を自転車ごと守れるようなチカラがあるなんて到底思えない。……そう、高橋さんは宇宙人だったのである。

このあらすじだけでもツッコミを入れたくなる『ホットスポット』。一連の流れを“未知との遭遇”とでも言うように、もっと大げさに扱うこともできたはずだが、今作では淡々と、あくまでも清美の日常の延長線上に、高橋さんとのエピソードがある。現実なら絶対にありえないシチュエーションをあえて低体温で描きつづける。宇宙人の高橋さんよりも、学生時代からの友達とするおしゃべりのほうが何倍も楽しそうにみせるのが、いかにもバカリズム脚本らしい。
『ホットスポット』を観ていると、どうしても前作の『ブラッシュアップライフ』が頭に浮かぶ。交通事故で亡くなった公務員のあーちん(安藤サクラ)が、徳を積んで人間に生まれ変わるために、何度も人生をやり直す。自分のために何度も転生を繰り返していたあーちんの物語は、やがて親友のなっち(夏帆)とみーぽん(木南晴夏)を救うための物語へと変化する。

『ブラッシュアップライフ』があれほど多くの人を夢中にさせた理由は、過ぎ去りし平成の音楽や流行を作中に取り入れ、あーちんたちの話を視聴者の物語と“同化”させたことにあると思う。主人公が公務員であることも共感しやすいポイントで、あーちんたちの他愛もない会話は、まるで自分の知り合いが近くで話しているような心地よさがあった。
だが、彼女たちの物語の結末はどうだろう。パイロットになったあーちんとまりりん(水川あさみ)は、飛行機事故の回避に成功する。それ以降なっちとみーぽんを含めた4人はずっと仲良しで、最終的には同じ老人ホームに入り、98歳の天寿を全うするまで一緒に過ごすのだ。どういう経緯であーちんたちが同じ老人ホームへ入ることになったかは明かされない。もしかしたら途中でパートナーがいたのかもしれない。けれど、結婚や出産などでライフステージが変化しやすい立場にある女性が4人集まり、人生最期の瞬間まで一緒にいたあーちんたちの物語は、多くの人の理想や希望が詰まった“ユートピア”のようにも見えたのだ。
『ホットスポット』と『ブラッシュアップライフ』には似たような点がある。たとえば、主人公に仲のいい女友達がいて、それが3人組であること。交通事故が主人公の運命を大きく変えること。しかし『ホットスポット』は『ブラッシュアップライフ』になりそうなところで、絶妙に“じゃない方”へと切り返している。主人公に仲のいい女友達はいるが、しょっちゅう集まるほどの仲……じゃない。
むしろ清美がはっち(鈴木杏)やみなぷー(平岩紙)と頻繁に集まるようになったきっかけは、高橋さんなのである。主人公が交通事故に遭う……けど、死なない。高橋さんのおかげで助かるのである。しかも清美はシングルマザー、みなぷーは既婚者で子持ち、はっちは独身……というように、仲良し3人組のライフステージがバラバラなのも『ブラッシュアップライフ』とは大きく異なる点だ。つまり『ホットスポット』は、『ブラッシュアップライフ』“じゃない方の人”に向けられた作品なのではないだろうか。

さらに『ブラッシュアップライフ』とは、決定的に違う点がある。それはもちろん、高橋さんの存在だ。高橋さんから宇宙人だと打ち明けられた清美は、はっちとみなぷーにうっかり(?)話してしまう。しかし、それがきっかけで、高橋さんは女子3人の輪の中に入るようになる。現時点では、高橋さんが清美たちからしょうもないお願い事をされることが多く、フェアな関係とは言い難いのだが、宇宙人でありながら地球に生まれ育ち、そのバックボーンを明かせずに他人と接してきた高橋さんにとっては、やっと得られた居場所なのかもしれない。
だが、清美・はっち・みなぷー+高橋さんという構図は、事情を知らない他人から見るとなんとも奇妙な絵面だ。それは誰よりも高橋さん本人が自覚しており、休日のレストランに4人集まった際、突如現れた新キャラ・あやにゃん(木南晴夏)に真っ先に紹介せず、普通に話し始めていたことに対して「向こうは絶対『誰?』ってなってたよ」と苦言を呈していた。