『べらぼう』横浜流星の眼差しの美しさは別格 森下佳子脚本は名作時代劇ドラマをつなぐ

『べらぼう』横浜流星の眼差しの美しさは別格

 例えば、自分の住んでいる街や、働いている職場のことが大好きだったとして、外からなんとなく見た人にその魅力はなかなか伝わらない。そして考える。私は一体その街/職場のどこが好きなのだろう。頭に浮かんでくるのは人の顔。愛すべきそれぞれの個性だったりする。

 NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公で、のちに「江戸のメディア王」となる横浜流星演じる蔦重こと蔦屋重三郎が駆け抜けていった序盤4話において、彼は、彼が愛さずにはいられない生まれ育った場所・吉原を、花魁たちの個性を通して伝えていった。

 例えば、第2回において平賀源内(安田顕)が「観客」として吉原の光景を楽しそうに眺めている様子とともに形となっていった吉原細見『嗚呼御江戸』の序文は、ただ一言「美しい」ではまとめられない、花魁が持つ多種多様な魅力を通して吉原を映しだす。さらに、他でもない「誰よりもこの町を見ている」蔦重が見立て絵を通して花魁1人1人の「顔」、人となりが見えるように光を当てていったのが第3回における『一目千本』だった。

 彼が手掛けた作品を各話の副題の随所に忍ばせる本作は、まるでそれ自体が江戸時代の優れた絵師たちの作品を一同に集めた巨大な美術展のようであるだけでなく、九郎助稲荷(綾瀬はるか)が、手にしたスマホの地図をひょいと指で広げて拡大するような軽妙さで、蔦重が生きる吉原を、さらには「この欲深き時代」江戸時代中期を生きる人々の姿を見せてくれる。

 『おんな城主 直虎』(NHK総合)、『大奥』(NHK総合)の森下佳子が脚本を手掛けた大河ドラマ『べらぼう』が面白い。『おんな城主 直虎』に続いて出演する小田新之助を演じる井之脇海や、田安賢丸(のちの松平定信)を演じる寺田心の成長ぶりを楽しんだり、『鬼平犯科帳』で慣れ親しんだ時代劇界のヒーロー、火付盗賊改方・長谷川平蔵宣以(中村隼人)の若き日の意外すぎる姿に衝撃を受けたりと、大河ドラマ・時代劇ファンを楽しませてくれるのは『JIN-仁―』(TBS系)をはじめ複数の語り継がれる時代劇を手掛けてきた森下佳子ならではだ。

 そして、視聴者が『べらぼう』を観る前に触れてきた近年の主たるテレビ時代劇の流れにも触れずにはいられない。よしながふみ原作、森下佳子脚本『大奥』(2023年放送)を通して、視聴者は『べらぼう』とは異なる世界線で、欲望渦巻く幕府の中枢で巻き起こる栄枯盛衰の歴史を目の当たりにしている。また、絵師繋がりでいけば、前半の兼業画家としての葛藤と、鬼才・葛飾北斎(長塚京三)との対比が印象的だった歌川広重(阿部サダヲ)の人生を描いた2024年放送のNHKドラマ『広重ぶるう』(梶よう子原作、吉澤智子脚本)も心に残る名作だった。そして、2024年の大河ドラマ『光る君へ』において、脚本家・大石静が『源氏物語』の作者・紫式部(吉高由里子)を通して描いたのは、個々の秘めた思いの産物とも言える「物語」が、気づいたら国をも動かしてしまうことの凄さだった。

 続く『べらぼう』が描くのは、初めて本を作りながら「夢ん中にいるみてえだ」と嬉しそうに笑う青年・蔦重による「本づくり」の話。タイトルに「蔦重栄華乃夢噺」とあるように、本作を通して視聴者は、彼が「夢」を見続けて生きていく姿を目の当たりにすることができるのだろうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる