『おむすび』は『モテキ』とセットで観るべき 仲里依紗を“主人公”にした緒形直人の名演

結(橋本環奈)がほぼ出ない2週間目にあたるNHK連続テレビ小説『おむすび』第17週「Restart」では、ひみこ(池畑慎之介)とナベべこと孝雄(緒形直人)、名優たちの芝居が重みをもって光った。要するに、このドラマのもうひとりの主人公である歩(仲里依紗)を大人たちが慈しみ励ます物語であったのだ。
阪神・淡路大震災で親友を失い、心に大きな穴が空いた歩。日々、その穴を埋めて、立ち直ったかのように見えて、すぐまた元に戻ってしまうことを繰り返してきた。元気で陽気にふるまっているようで、ほんとはどうしていいかわからなくなっている。そこへ東日本大震災である。歩の心は再び大きく揺さぶられ、1年経っても、心が落ち着かない。
おりしもさくら通り商店街も新しいショッピングセンターの脅威に悩んでいる。そこへ、ひみこがひょいっと顔を出す。老若男女、みんな自由と、ひみこがギャルの真髄のようなことを語ったのをきっかけに、歩はひみこにギャルの衣装を着てもらい、SNSで拡散することを思いつく。

ひみこだけでなく、愛子(麻生久美子)や、商店街の人たちが皆、おしゃれして写真撮影され、SNSで拡散。それが商店街を活気づかせていく。ひみこと愛子の2ショットはかなりインパクトがあった。ひみこはもともとゴージャスな装いをしていておしゃれだったが、愛子はいつもマイルドヤンキーの普段着という感じだったのが、金髪のウィッグにヘアメイクしたら、聖人(北村有起哉)がうっとり見惚れるほどの仕上がりに。と、ここでいったん、前からずっと言及したかった映画『モテキ』について、語らせてほしい。
『モテキ』には、麻生久美子と仲里依紗が出演していて、冴えない主人公(森山未來)の人生にひととき彩りを与える役割を担っていた。これがいま見返すと、もう気絶しそうなほど、麻生久美子と仲里依紗がかわいい。いまだとルッキズムと言われるのかもしれないが、かわいいものはかわいい。ついでにいえば長澤まさみも真木よう子も超かわいい。話を戻して、麻生は、主人公に恋をする、清楚系ながら少し重めな女性の役で、朝、牛丼を食べるその姿に萌える観客がたくさん現れた。仲は、ガールズバーの店員役で、盛ったヘアメイクの仕上がりがパーフェクト。派手な外観に内面のパワーが負けてない。あの頃、主人公の恋愛対象の役割だった麻生と仲が、『おむすび』では母娘役であることに感慨無量である。『おむすび』の語りであるリリー・フランキーも『モテキ』に出演していた。
この『モテキ』の公開年は2011年であった。震災から半年後の9月、この恋の狂想曲のような映画が公開され、大ヒットしていたのだ。映画のシナリオを作っているときに震災があったそうで、監督の大根仁は「ほぼ日刊糸井新聞」で「『ハッピーエンドにしよう』とも思いました」「‥‥この映画に関することで、震災の話はあまりしないようにしてるんです。でもやっぱり、まちがいなく、あの地震があったからできた内容ではありますね」と語っている。
震災でみんな大変なのに、恋の話なんて、ということはなく、むしろ、主人公のモテなくて冴えない日々に、恋の光が差し込んで、そうしたら、生きる力がぐんぐん湧いてくる、そんな映画が2011年秋、観客を勇気づけていたということが重要である。例えば、「恋」を「おしゃれ」に置き換えてみよう。それが『おむすび』である。ギャルのおしゃれは恋と似ているような気がする。なにかぱーっと華やいだもの、心に火を灯すもの。B’zが主題歌で歌う「イルミネーション」のようなものと言ってもいいだろう。しんどいときには、そんなものが必要なのではないだろうか。