『樹海村』清水崇、『事故物件』中田秀夫 両監督の健闘で“Jホラー”ブーム再燃なるか
中田がハリウッドから帰ってきて最初に手掛けたのはJホラーの元祖とも言える落語「真景累ヶ淵」を原作とした古典ホラー『怪談』。それからは『インシテミル 7日間のデス・ゲーム』といったサスペンスからロマンポルノのリブート企画である『ホワイトリリー』。さらには『終わった人』ではがらりとテイストを変え、人情味あふれるコメディ作品にも挑んでいく。しかもその間にも、2010年にイギリスに渡って『Chatroom/チャットルーム』を製作。“日本を代表するホラー監督”の一人として確実に世界にその名を刻んでいたわけだ。
そして2018年に発表した『スマホを落としただけなのに』が、まごうことなき大ヒットを記録する。田中圭が偶然スマホを落としてしまったことをきっかけに、その婚約者である北川景子の身にさまざまな危険が襲いかかる。それと同時に進行する連続殺人事件という古典的なプロットと、あらゆる情報が記録された現代人の必需アイテムが陥りかねない極めて身近な恐怖が絡み合うそのスタイルは、20年前に「VHS」という、時代を代表するガジェットに恐怖を植え込んだ『リング』とどこか通じているものがある。その流れで“貞子”をYouTubeデビューさせる『貞子』でシリーズに回帰し、前述のヒット作である『事故物件』にたどり着くのだ。
この『事故物件』もまた、“物件”という衣食住のひとつを占める、極めて必需性の高い存在に潜む恐怖を題材にし、そこにあえて住んで恐怖映像を記録することでブレイクを図ろうとする亀梨和也演じる芸人の姿が描かれていく。その映像を流す場がテレビ番組という辺りはちょっぴり古風ではあるが、誰もが容易に動画を撮影できるという点ではYouTube時代に即したものともいえる。クライマックスの“バトル”はさながら『クロユリ団地』を思い出させるシュールさがあったことはさておき、やはり中田ホラーの強さは時代に敏感に反応し、その時々にメインストリームにあるガジェットとホラーとの親和性をうまく物語に落とし込んでいることに他ならない。その点では、コロナ禍で発表した『リモートで殺される』(日本テレビ系)も、まさに適任であったといえようか。
とりわけ流行に敏感な若者が主要なターゲットとなりやすいホラー映画だけあって、そうした時代に即したアプローチは重要なものとなる。清水もまた、敏感に時代に反応するタイプの作り手ではあるが、不思議なほどにその応用の仕方、扱い方は中田と対照的である。たとえば当時最先端の技術であった3Dを取り入れた『戦慄迷宮3D』や『ラビットホラー3D』であったり、4DX専用映画の『雨女』と、作品の外見の部分から、映画がアトラクション性を求められるという時代の流れに対してあまりにもスムーズに順応していくのだ。