『樹海村』清水崇、『事故物件』中田秀夫 両監督の健闘で“Jホラー”ブーム再燃なるか

清水崇&中田秀夫の健闘で“Jホラー”再燃?

 そのフットワークの軽さと同時に、中田ホラーではストーリーに著しく影響を与えるガジェットや舞台が、あくまでも装置のひとつに過ぎないといわんばかりの恐怖の作り方が、清水ホラーの特徴とみえる。『呪怨』シリーズでは“呪いの家”という格好の舞台が用意されるも、一見すると地縛霊かと思われた伽耶子と俊雄は、いとも容易く“お出かけ”をし、襲われる登場人物ごとに章立てがされていく。『犬鳴村』もまた“心霊スポット”自体の怖さではなく、そこに根深くある不条理や得体の知れない何かに“触れる”という行為によって、恐怖を受ける登場人物の心理を描くことを介して観客に恐怖を植えつけるというアプローチが取られる。

 特に『犬鳴村』は、興味本位で呪いに“触れて”しまった身内が行方不明になり、それを探すというプロットが『貞子』とかなり似通っており、観比べてみるとそれぞれのホラー描写へのアプローチの差がより顕著にわかるだろう。『リング』の時代よりもアメリカナイズされた、直接的な恐怖描写にシフトした中田ホラーに対し、清水ホラーはオリジナルビデオ版の『呪怨』の頃から一貫して不条理さと、スピリチュアル性が厳粛に守られているのである。それはさながら、“Jホラー”とはホラー映画の小ジャンルではなく、普遍的なヒューマンドラマの延長線上にあるものとさえ思えてしまうほど。

『樹海村』(c)2021『樹海村』製作委員会

 そうしたスピリチュアルな部分と、登場人物を介して観客に提供される怖さというものは、もちろん清水の最新作の『樹海村』でも守られているし、むしろ富士の樹海という格好の舞台設定もあってスピリチュアルな部分はより強力になっている。前述のネット怪談の代表格である“コトリバコ”というガジェットによって主人公姉妹の抱える葛藤があぶり出されていくなかに、ひとつの要素としてホラー描写が加わり、『犬鳴村』同様にYouTuberの好奇は物語の発端として使われているに留まる。とりわけ深い森のなかで繰り広げられる民話的かつ神話的なクライマックスは、ホラー映画を観たという感覚よりもアピチャッポン・ウィーラセタクンの『ブンミおじさんの森』を観たときの感触に近い。おそらくこの『樹海村』と、清水の2006年の大傑作『輪廻』を足して二で割ってホラー要素を引けば、『ブンミおじさんの森』になるのでは、というのもいささか大袈裟な表現ではないだろう。

 いずれにしてもブームから長い年月を経て、Jホラーの立役者である監督たちがそれぞれのカラーをより強調させた新作で再びヒットを起こしているということは、実にポジティブなことではないだろうか。如何せん流行のジャンルというものに流されやすい映画界で、一周回って再び“Jホラー”というジャンルが盛り上がり、しかも前のサイクルで輝いていた監督がより力をつけた状態でそれをリードする。しかもこの数年間でホラー映画にすっかり定着したイメージである、若手俳優を売り出す場としての役割すらも果たすとなれば、あとは新たなホラーアイコンの登場を待つほかない。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『樹海村』
全国公開中
出演:山田杏奈、山口まゆ、神尾楓珠、倉悠貴、工藤遥、大谷凜香
監督:清水崇
脚本:保坂大輔、清水崇
企画プロデュース:紀伊宗之
配給:東映
(c)2021『樹海村』製作委員会

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