【ネタバレあり】『呪怨:呪いの家』で描かれた“本当の恐怖” 鍵となるのは実在の凶悪事件

『呪怨:呪いの家』で描かれた“本当の恐怖”

 人は幽霊を怖がる。私も怖い。夜寝るときは、誰かに引っ張られないように足を布団の中にしっかりしまって、その布団の中身も“決して”覗かないようにする。そこに佐伯伽椰子がいるかもしれないから。

 ビデオ版にはじまり、映画も何作も作られた『呪怨』シリーズは、その衝撃の映像の数々で私たちにトラウマを与えてきた。幽霊を想像すると、大概が井戸から這い出る長い黒髪の女(貞子)か、階段から這い降りてくる長い黒髪の女(伽椰子)。みんな這ってばかりだな!

 ところが、彼女たちに限らず幽霊というのは元々が人間であることを、私たちは知っている。だから、ご先祖のおばあちゃんが枕元に立っても、恐怖を感じるどころか久々の再会に胸を温めるかもしれない。そこで厳密に言うと、我々が怖がっているのは幽霊というより「怨霊」にあたるものだろう。この大きな違いは、「どんなふうに死んだか」つまり「呪いや穢れを生み出すほどの強い憎しみに触れて死んだか」が問題になってくる。このプロセスを、Netflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』は丁寧に描いた。

時代設定の意図:日本家庭の変容、ネグレクトが生み出す悲劇

 本シリーズの最も特筆すべき点は、その時代背景にある。全6話にわたる物語は第1~2話が1988、89年、そこから飛んで第3話が1994年、第4~5話が1995年、そして最終話が1997年を舞台に描かれる。時期としてはまさにバブル後期、そして崩壊後。その時代の特徴の一つである「家族の在り方の変容」が本シリーズに深く関わっている。

 80年代後半は少子化が深刻化していたため、一人っ子の子供が増え3人家族の家庭が多かった。そして第1話の88年という時代は、85年に男女雇用機会均等法が制定されたことにより女性の社会進出が進んでしばらくした頃合い。これまで家事に徹底していた妻や母親が、時間に融通の利くパートタイムの仕事を始めたことで共働き世帯が増えた時代ともいえる。それに加え、バブル経済の中でサラリーマンである夫がお金に余裕があるため外で遊んだり、愛人を作ったりすることも少なくない時代だ。つまり、両親の注意が家庭という内側ではなく、社会という外側に向いていた。これが子供に対する放任主義、ネグレクトへと繋がっていく。

 家族間の絆が希薄になり、子供が感じる孤独は増した。家庭内暴力が増え、離婚した母子家庭も珍しくなかった時期。第1話で描かれた聖美(里々佳)の家庭環境が、まさにこれに当たる。この頃は学校でのいじめも深刻な問題となっていたが、子供が抱える問題は聞く耳を持たない大人に伝わりづらく、彼らは代わりの繋がりを求めてギャングに参加したり夜の街に繰り出したりした。聖美のクラスメイトがディスコにしょっちゅう出入りしていたのも、ネグレクトの延長にあるもの。第1話と第2話にまたいで描かれた、彼女たちと男子生徒(雄大(長村航希))による「呪いの家」での聖美の強姦シーンは痛ましく、生々しい。これは第2話内のテレビで映される「女子高生コンクリート詰め殺人事件」に通じる、まさに想像力と共感性が著しく欠如した当時の少年少女による犯罪の再現そのものなのだ。

 「コンクリート事件」の主犯少年Aもまた、冷え切った家庭内で両親から受けた愛情の乏しい、孤独な子供だった。そんなふうにネグレクト、放任主義の存在感を強く感じさせる第1話、第2話。「呪いの家」で聖実の受けた憎しみと呪いは、第3話、第4話で、彼女自身の家庭が両親と同じ道を辿るように崩壊していく結果として描かれた。

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