藤原季節が立ち上げる主人公像 “いい俳優”としての素質が活かされた『佐々木、イン、マイマイン』

藤原季節が立ち上げる主人公像

 佐々木! 佐々木! 佐々木! 佐々木! 佐々木! ーーいまだに脳内で“佐々木コール”が鳴り響いている。ぼんやりと浮かび上がるその光景の中心にいる佐々木(細川岳)と、周囲の者たちと一緒になって、彼をあおっている悠二(藤原季節)。内山拓也監督作『佐々木、イン、マイマイン』の主人公は、タイトルロールである佐々木ではなく、悠二の方だ。つまり主役は、藤原なのである。本作はこの“悠二=藤原季節”の視点をとおして、自分の人生の主人公は私たち一人ひとりなのだと改めて気づかせてくれる。

 藤原はいい。どの作品を観ても、いつもいい。物語を展開させる主要な役どころだけでなく、画面に一瞬映るだけのような役どころでもいい。それも、奇をてらったキャラクターや演技でなくとも自然と印象に残るから不思議である。しかしこれこそが、いい俳優の素質として重要だとされるものではないだろうか。本作の『佐々木、イン、マイマイン』では、そんな藤原の持つ素質が全面に活かされているように思う。素朴な表情の中にもときに激情をのぞかせ、目の前の現実に対して発する声の震えは観客の共感を誘うはずである。

 だがこれまでの藤原といえば、やはりトリッキーな役を演じていたときの印象が強く残っているのは否定できない。かといって、その手の役ばかりを演じてきたわけではもちろんないのだが、ひとたび強烈なキャラクターを演じれば、その印象はどうしてもついてまわるものだ。例えば、2017年に公開された『全員死刑』でのYouTuber役などがその最たるものだろう。しかし、『沈黙-サイレンス-』(2017年)や『関ヶ原』(2017年)といった時代劇、『止められるか、俺たちを』(2018年)では過ぎ去りし“日本映画界の青春時代”にも順応している。藤原はどの状態へもギアを切り替えられる、ひじょうにニュートラルな俳優なのだろう。

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