藤原季節が立ち上げる主人公像 “いい俳優”としての素質が活かされた『佐々木、イン、マイマイン』
先に少し触れたように、本作における藤原は素朴である。彼が演じる悠二は、ありていに言えば“どこにでもいそうな青年”であり、おそらく多くの者が味わうであろう人生の停滞期の真っただ中にいる存在だ。そんな彼の心の中にいるのが高校時代のかつてのヒーロー・佐々木で、悠二は彼を囲む仲間のうちのひとりに過ぎない。物語は悠二の視点を介するつくりとなってはいるものの、佐々木のインパクトは凄まじく、気圧されかねない。この佐々木を演じる細川は、本作の企画の立ち上げから携わっている人間とあって、このうえないハマり役である。彼以外にこの役を演じられる者はいないのではないかと思うほどだ。
だがそれは、藤原に関しても同じこと。悠二役は彼以外には考えられない。怒り、焦り、悲しみ、妬みーーといったものがたしかに悠二からは感じられるが、藤原はこれらの感情を抑制し、等身大で表現。それでいて、痛いほどにこちらには伝わってくる。観る者が持つ似たような感情を共鳴させているのだろう。悠二は“仲間のうちのひとり”に過ぎないが、“自分の物語の中心”に彼は立っている。
もちろん本作での悠二というキャラクターは、藤原ひとりで立ち上げることができたわけではないのだろう。細川をはじめとする共演者の誰も彼もが粒ぞろいだ。萩原みのりは、悠二の元恋人であり、彼を停滞させている一因でもあるユキを演じ、悠二の高校時代からの仲間の多田と木村に、遊屋慎太郎と森優作が扮している。そして、俳優として鳴かず飛ばずの日々を送る悠二にとって、“成功”しているように見える須藤という重要な役どころに村上虹郎。彼ら一人ひとりが血の通った人物像をそれぞれに立ち上げていることで、“悠二=藤原季節”もまた立っていることができたのではないかと思う。このことはひるがえって、共演者たちが立ち上げた、多田や木村、ユキ、須藤といった人物たちにも生活があり、人生があるのだという当然の事実へと思い当たらせる。彼らもまた、それぞれの“自分の物語の中心”に立っているのだ。それを端的に示しているのが、“悠二=藤原季節”という存在なのである。主人公は誰か? その答えは、“佐々木コール”を耳にした(あるいはいま、口にしている)、私たち一人ひとりなのだ。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■公開情報
『佐々木、イン、マイマイン』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
監督・脚本:内山拓也
出演:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、井口理(King Gnu)、鈴木卓爾、村上虹郎
制作:槇原啓右
プロデューサー:汐田海平
配給:パルコ
(c)「佐々木、イン、マイマイン」