『窮鼠はチーズの夢を見る』が捉える恋愛の“本質” 人はなぜめんどくさいのに恋をするのか

『窮鼠』から学ぶ「人はなぜ恋をするのか」

 「男と男」という決してポピュラーではない設定は、むしろ、普遍を発見するためのスパイスであって、決して本質ではない。恭一と、今ヶ瀬は、違う人間なのだ。だから、向き合っている。だから、ともに困難を生きている。だから、恋をすることもできる。

 そのことを体感すると、どちらが同性愛者で、どちらが異性愛者なのか、どちらが告白して、どちらが告白されたのかの区分けなど、ほとんど意味がなくなることを、わたしたちは知る。

 恭一はどんなことがあろうと恭一だし、今ヶ瀬はなにがあろうと今ヶ瀬なのだ。だから、ままならない。恭一には恭一のイメージがある。今ヶ瀬には今ヶ瀬の理想がある。恋愛の捉え方も、未来への希求も異なる。だから、めんどくさい。でも、すり寄せる必要もないし、妥協しなくたっていい。

 ままならないから恋をしている。めんどくさいけど恋をしている。他者と他者とが、どこまでも無防備に渡り合う。ほかのだれのためでなく、ふたりという場所と時間のために、対等でいる。だから、恋は恋として、そこにある。

 どんなに傷ついても、どんなに傷つけても、このふたりのようでいたい。少なくとも、わたしはそう思っている。恋愛とは、そういうことなのだと、いま確信している。

■相田冬二
ライター/ノベライザー。雑誌『シネマスクエア』で『相田冬二のシネマリアージュ』を連載中。ノベライズに『さよならくちびる』『追憶の森』『はなればなれに』『息もできない』などがある。Zoomトークイベント『相田冬二、映画×俳優を語る。』開催中。

■公開情報
『窮鼠はチーズの夢を見る』
9月11日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
出演:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子
原作:水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』『俎上の鯉は二度跳ねる』(小学館『フラワーコミックスα』刊)
監督:行定勲
脚本:堀泉杏
配給:ファントム・フィルム
(c)水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会/R15
公式サイト:http://www.phantom-film.com/kyuso/
公式Twitter:https://twitter.com/kyuso_movie

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